「数字を持っている」と評される女優が挑む話題作。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏がさっそく分析した。
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2013年の『ラスト・シンデレラ』で喝采を浴びた篠原涼子が、2年半ぶりにドラマの主役に戻ってきた。『オトナ女子』(フジテレビ系木曜夜10時)の主人公・中原亜紀(篠原)は、アプリ開発の制作会社でバリバリ働く独身アラフォー。大崎萠子(吉瀬美智子)、バツイチで子持ちの坂田みどり(鈴木砂羽)と、女子会でつるんで励ましあったり愚痴ったりしながら、何とか幸せをゲットしようと挌闘する大人のラブストーリー。
脇の男たちも半端ない布陣だ。斉藤工とのベットシーンに始まり、江口洋介、谷原章介と豪華な円熟キャストが登場。盤石なお膳だての上で、滑り出したオトナの恋愛ドラマ……と思いきや、どこか不思議な違和感が。それは既視感なのか、それとも仕掛けられたトラップなのか。
とにかく、単なるラブコメでは済まない予感がする。胸がざわざわする理由とは何なのか? 3つの点をあげてみたい。
●過去のドラマのパロディを狙う?新境地
母親を「かあちゃん」と呼ぶ息子。包丁を振り回す女。よっぱらいには見えない千鳥足。長い髪の毛をオーバーにかきあげる主人公。朝の電車で男のシャツに見知らぬ女の口紅がベトリ。偶然が重なりあって、この広い大東京の中で二人は再遭遇。
なんというベタな展開。昭和の香りがたちのぼりる描写が満載だ。これは、「意図」した演出にしか見えない。
ちょっと「ウザイ」ように、視聴者の気分を逆なでするように、ネットでつっこまれるように、細やかに逆「配慮した」演出にしか見えないのだ。
それも、当然のことだろう。今どきのドラマは医療の闇、企業の不正、高齢化、セクハラ、シングルマザーの貧困と、社会問題に向き合う作品が多い。つまり、大きなテーマがくっきりと立っている。しかし、この『オトナ女子』のテーマは、「日常」ど真ん中。その意味で、他のドラマとは明快に差別化できている。
恋愛以外に極端な事件は起きない。だから、ささやかなエピソードをいくつも重ねてつないでいくのだ。飽きられないよう多少刺激的に、つっこみ所も仕込んで、トレンディドラマのパロディも入れ、ディフォルメして、時には派手な立ち回りも。
そうした仕掛け満載のドラマとして眺めると、また新鮮だ。『オトナ女子』は、今どきの社会問題寄りのドラマの潮流が生み出した、もう一つの形なのだ。
●ベテラン俳優たちの実人生が、ラブストーリーを邪魔する
『デザイナーベイビー』(NHK火曜午後10時)で主役を張る黒木メイサの妊婦刑事を、私は「成功事例」と書いた。実人生の経験を上手に活かしていたからだ。
ではこのドラマはどうか?
篠原涼子は、現実生活では二児の母。結婚相手も市村正親と有名人ゆえに、何かと私生活がクローズアップされる。そのイメージが時に邪魔をする。等身大のご本人のイメージが立ち上がってきて、「仕事がデキる独身キャリア」「年下ミュージシャンを甘えさせる年上女」に、見えてこない。視聴者を説得するためにはもう少し仕掛けか工夫が欲しいところ。
江口洋介もそう。「シニカルな人気脚本家」というよりも、森高千里の良き夫で理想の有名人夫婦。そんな実人生のイメージが、どうしても浸み出してくる。谷原章介も、子だくさんのいいお父さんだとみんなが知っている。今回のプレイボーイのチャラい社長役としては、どこか上滑り。
つまり、一人の人間として年を重ねてきたベテラン俳優たちを、ドラマの中でどう活かすのか、が問われている。もちろん、まったく別人格を演じるのは役者として当選のこと。演技や演出で、見ている人を説得してくれるのならば。反対に、実人生のイメージが少しでも浸み出してくれば、ファンタジーが膨らまないところか、しぼんでしまう。
オトナ俳優が出揃った『オトナ女子』だけに、そのあたり今後の工夫に期待したい。