食料品以外にも必需品と考えられるものは数多くありますから、「これも軽減すべきだ」という議論がどんどん出てきて、何を軽減すべきかの議論が永遠に続くことになります。すでに軽減税率の導入が既定路線である以上、それぞれの業界が適用を求めるのは理解できますが、それではエネルギーのロスが多くなると私は考えています。
そうした結果、諸外国でも大きな問題が起きています。軽減税率やゼロ税率品目が広がったために、消費税率が20%であっても、税収の観点からいうと12%程度の効果しか持たないといったケースが生まれています。それなら軽減税率をすべて廃止して、20%から12%まで税率を下げた方が効率的であり、経済に大きなプラスではないか、という議論も出てきているのです。
さらに、日本特有の事情としては、欧州のようにインボイス方式(仕入れの際に品目ごとに適用される税率・税額が記された書面を交付する仕組み)が採られていないことがあります。中小事業者を中心に(インボイスではなく)帳簿方式の継続を望む声が一部にあるため、消費税をどの事業者がどれだけ払うかがわかりにくい、という状況があります。
軽減税率など複数の税率を適用する制度に移行する場合、インボイスなしにそれを行なうのは非常に難しいです。公正な制度にならない恐れがあり、実務的には問題が大きいとされています。
このように、軽減税率を実施することは誰の得にもならないのです。
※週刊ポスト2015年11月6日号