中国が主張する、いわゆる「南京大虐殺」が、ユネスコの世界記憶遺産に登録された。この影響もあってか、宮崎の「平和の塔」に中国側が突然、石材を返還せよと求めてきた。ジャーナリストの小川寛大氏が、この騒動の現場からレポートする。
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宮崎県宮崎市の郊外に「八紘一宇の塔」と呼ばれる塔がある。戦前に建てられた高さ約40メートルの石塔で、表面に大東亜戦争のスローガンにもなった“八紘一宇(「世界は一つの家である」という意味)”の文字が刻まれている。もっとも、地元の人たちの間ではそうした歴史的経緯は関係なく、「平和の塔」という名前に変わったいまも、「八紘一宇の塔」として親しまれている。
ところがいま、この歴史遺産に中国側が突然、クレームをつけ、地元が騒然となっている。
塔を管理する宮崎県庁に、中国側から抗議がもたらされたのは、今年10月1日のこと。中国・南京市の民間団体「南京民間抗日戦争博物館」から、「“侵略戦争の象徴”である八紘一宇の塔には中国から戦争中に“略奪”された石材が使われている。中国に返還せよ」という趣旨の要求があった。塔を管理する宮崎県庁都市計画課の担当者は困惑した面持ちでいう。
「戦争の時代に作られたものではありますが、中国のみならず韓国や北朝鮮、台湾からも抗議が来たことはない。戦後70年、特に問題になったことはなく、このような要求は初めてです」
塔の近くに住むという男性も「何をいまさらという感じが強い」と釈然としない表情。いったいこの突然の要求の背景には、何があるのだろうか。現在、塔の付近一帯は「平和台公園」という名前で、宮崎県民の憩いの場として整備されている。
「初代天皇である神武天皇が即位されてから2600年目となる昭和15(1940)年に、天孫降臨の地である宮崎県にその記念碑を建てようという地域運動の中から作られたものです」
塔の歴史に詳しい、宮崎神宮権宮司の黒岩昭彦氏はそう解説する。