多くのバラエティー番組でレギュラーを持つ超売れっ子のマツコ・デラックス。10月から始まった新冠番組『マツコ会議』(日本テレビ系)では、絶妙の素人イジリを見せている。その姿に、テレビ解説者の木村隆志さんはマツコの進化を感じたという。木村さんが語る「マツコ論」とは――。
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ここにきてマツコさんのトーク内容がマイナーチェンジしている気がします。きっかけになったと思われるのは、今年4月から放送されている『夜の巷を徘徊する』(テレビ朝日系)と、10月スタートの『マツコ会議』。ともにマツコさんと素人のトークを楽しむ番組であり、夜の街で気さくに声をかけたり、話題のスポットにいる人と会話を交わしたり、フレンドリーな姿が目立ちます。
マツコさんがテレビに出はじめたのは、2005年に『5時に夢中!』(TOKYO MX)のレギュラーになってからですが、それから全国区になる2010年ごろまでは、巨体のインパクトと毒舌のユニークさを期待されたポジションに過ぎませんでした。
その後、2011年スタートの『マツコ&有吉の怒り新党』(テレビ朝日系)と『マツコの知らない世界』(TBS系)、2012年スタートの『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)で、素人に近い感覚を持つタレントとして、さまざまなことに「だから〇〇なのよ」「〇〇は絶対ダメ」「これはいい!」と物申すポジションに進化しました。
そして現在はさらに一歩進んで、大物司会者のような素人イジリの上手さを見せはじめています。たとえば『マツコ会議』では、97歳でネイルサロンに来たおばあちゃんを「あらっステキ! 手もキレイ!」と持ち上げて「夫が結婚3年で亡くなったから、いいとこばっかり思い出します。だから昔も今も幸せ」とちょっといい話を引き出し、80歳のおばあちゃんには「ラインストーンとかラメってお年いっている人のほうが似合う」とホメつつ、「洋服もゴッホの絵みたいで(似合う)」ときっちり笑いで落としていました。
また、渋谷ギャルとのトークでは、「自分のことかわいいと思ってる? モデルになりたいんだよね」とその気にさせようとしてイジったものの、「昨日、水原希子ちゃんの事務所にスカウトされたんですよ」と自慢げに逆襲され、「何だお前! それ出されたら何も言えね~よ!」と吐き捨てて笑いを取っていました。
マツコさんの素人イジリを見ていて気づくのは、乗せ上手なこと。「こんなこと聞いていいのかしら」「下世話な話なんですけど」など配慮しながら質問しつつも、素人が話し出すと「おおっ!」「もお~っ」「ステキ!」「エ~ッ、ホントに?」などの大きなリアクションで話しやすい雰囲気を作っているのです。
しかし、素人が調子に乗りすぎたり、くだらないボケを見せたりすると、「何だとコノヤロー!」「ふざけんなよ!」とキレてくれるから、マツコさんと絡んだ素人は「面白い人」の印象が残りますし、視聴者もストレスをためることなく安心して見られるのでしょう。
もともとマツコさんは、“丁寧語と毒舌の出し入れ”が巧みだったのですが、素人との絡みやCM出演が増えた今年は、丁寧語で話す割合が増えました。ただ、そこはさすがクレバーなマツコさん。「無難なことだけ言っていても面白くない」ことは分かっているので、その分スタッフに毒を吐いて笑いを取っているのです。