いったん容疑者扱いされると、無実の立証は難しく、社会的信用が失墜する痴漢。有罪率は99%という実態がある。法の専門家ですら対処法が別れる超難題。では、実際に「この人、痴漢です!」と女性から言われてしまったら、男性側はその現場でどう対処すればいいのか?
痴漢えん罪を争う担当弁護士の情報交換の場として発足した痴漢えん罪弁護団の事務局長で、代々木総合法律事務所の弁護士・生駒巌さんによると、年に4~5件は無罪判決が出るほか、潔白なのに有罪と裁判官が認定してしまった事件、裁判前にやったと認めてしまう案件も数十件規模で毎年起きていると推測されるという。
そこで、以下のような初めの対応が重要になる。
駅事務所では被害女性とは別々に話を聞かれ、ほどなく通報を受けた管轄の警察署に連行されることがほとんど。そのため、なるべく駅事務所に行かずに、その場を立ち去りたい。だからといって「走って逃げるのは最悪の手」として、本誌が今回取材した5人の弁護士全員が口を揃える。
「最近は正義感の強い、女性を守ろうとする“第3の協力者”が出現する例も多く、混雑した駅構内で被害者・駅員・第3者を避けて逃げおおせる可能性は低い。誰かにぶつかってけがをさせれば傷害罪になる上に、捕まると“真犯人だから逃げた”と見なされ、心証も悪くなってしまうでしょう」(東京ディフェンダー法律事務所の弁護士・坂根真也さん)
一方、逃げるのと対照的に、名刺を渡して氏名・連絡先を明らかにしてその場を穏便に立ち去るという方法を推奨するのが、痴漢えん罪弁護団事務局長で代々木総合法律事務所の弁護士・生駒巌さんだ。
「条例違反の痴漢の罰金が50万円以下に引き上げられて以降は腕をつかまれた際に振りほどくと暴行罪になる可能性がありますが、拘束されていなければ立ち去るのは自由であり、名刺を渡してその場を離れるのは今でも有効な防衛策です。
こうして素性を明らかにして悠然と立ち去るという方法は、身の潔白を印象づける効果もあり、試してみる価値は充分あります」(生駒さん)
しかし、もちろん「それは通用しませんよ」と言って駅事務所に連れていこうとする駅員もいるだろうが、被害者がその場で名刺を受け取ることで納得してくれる場合も。
「穏便にその場を離れることができれば、〈逮捕~勾留〉のベルトコンベアに乗らず、起訴されても在宅で対応できる可能性があります」(生駒さん)