安倍晋三首相は第3次改造内閣の目玉として「1億総活躍担当相」を新設した。そのために「新・3本の矢」を打ち出したが、それは有効なのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、これらの経済政策の意義と見通しについて解説する。
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1億総活躍社会を実現するアベノミクス第2ステージの政策として(1)希望を生み出す強い経済、(2)夢を紡ぐ子育て支援、(3)安心につながる社会保障―という「新・3本の矢」を打ち出し、具体的な数値目標として「名目GDP(国内総生産)600兆円への拡大」「希望出生率(結婚して子供を産みたい人の希望が叶えられた場合の出生率)1.8の実現」「介護離職ゼロ」を掲げた。いずれも2020年代の達成を目指すという。
しかし「新・3本の矢」の数値目標は、いずれも達成不可能だと思う。たとえば、安倍政権は実質2%、名目3%以上の成長ペースを実現すれば名目GDPが2021年度に616兆円になるというシナリオを示しているが、マイナス成長になっている現状では至難の業だろう。希望出生率1.8も、結婚して子供を産みたい人の希望が100%叶えられるということはあり得ないから、実現できるわけがない。
現状で年間10万人もいる介護離職者をゼロにするというのも、それを達成するためには介護施設を山ほど作らなければならず、その財源やそこで働く人が必要になるので、不可能だ。にもかかわらず、広告代理店の軽佻浮薄で中身のないプレゼンのごとく、そういうスローガンが安倍首相の口からポンポンと出るのは、彼の“思考密度”の低さにほかならない。
さらに、安倍首相は「50年後も人口1億人を維持する」と言っているが、そのためには合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数に相当)2.07が必要となる。2014年の合計特殊出生率は1.42だから、到底無理だ。