高齢化社会のなかで需要が高まる介護施設。しかし、一方で入居者に対する職員による虐待が発覚するケースもある。静岡県で介護士として働くA子さん(47才)は、いつか自分も虐待をしてしまうのではないか…と思うこともあるという。
「軽度の認知症の入居者を介護していますが、食事のときにスプーンで口に運ぼうとしたら嫌がられて手を叩かれたので、思わず払いのけたんです。そうしたら“痛いよ!”と、大きなうめき声をあげられて、ハッとしたことがあります」(A子さん)
介護の現場は、する側とされる側の感情が絡み合い、トラブルが起こることは決して珍しいことではない。
介護施設という共同生活の場において、ルールを守るよう注意する職員と、細かい規律の中で生活する入居者の間で、考え方の違いや感情の行き違いが起こり、トラブルに発展するという。介護事情に詳しい健康社会学者の河合薫さんが説明する。
「ご高齢の入居者からすれば、自分のほうが人生の先輩ですし、うんと年下の若い職員から注意を受けて、イライラすることはあるでしょう。一方、職員としては、丁寧に接しているのにあまりにも横柄な態度をとられたり、強く抵抗されたりすれば、語気を強めるなどの行動に出ることもある。介護職は自分の感情をコントロールしながら、感情的な相手と向き合う“感情労働”で、本来は高度なスキルが必要です。にもかかわらず、専門的な訓練があまりされていないのが現状です」
神奈川県川崎市の介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で、2か月の間に3人の入居者がベランダから転落死していたことが発覚。施設では虐待行為が常態化していた疑いがあるとも報じられている。