昨今音楽業界が儲からなくなっていると言われて久しい。1990年代の最盛期にはCDの売り上げが6000億円台あったと言われていたが、現在は2000億円台に低下している。その理由については諸説ある。単価が安い音楽ダウンロードが一般化した、違法アップロードがウェブに蔓延している、音楽以外の娯楽が増え過ぎた――いずれも、「環境」に対して原因を求めているようである。
そんな中、音楽業界は様々な手を打っている。音楽の作り手であり、さらには書籍を積極的に執筆する西寺郷太氏、音楽を「快眠」に繋げるべく「快眠zzz」というiPhoneアプリをリリースしたユニバーサルミュージック、そして、音楽サブスクリプションサービスを提供する企業・AWAに話を聞いた。
現状の音楽を鑑みると、AKBグループの握手権付きCD販売や、音楽フェスの盛況、海外の大御所アーティストの来日公演が中高年世代を対象に満員御礼が続くなどの状況はある。音楽の活路は「ライブにある」と言われているが、果たしてライブはこれからの切り札になり得るのか。たとえば、今年8月に行われた「長渕剛10万人オールナイト・ライヴ2015in富士山麓」について、ある業界関係者は語る。
「チケットが1万5000円で10万人だとした場合、15億円の売り上げになり、大儲けだと思われるかもしれません。でも、実際のところはすさまじい額の経費がかかっているのと、人数にしても10万人かどうかは分からないところがあるので、一般の方が思っているほど儲かっていないと業界では評判です」
◆音楽家が小説を書く意味とは
ならば、他の活路はあるのか。『ウィー・アー・ザ・ワールドの呪い』や『プリンス論』などの近著がある音楽プロデューサーでポップ・ロックバンド「ノーナ・リーヴス」ボーカルの西寺郷太氏が語る。同氏は現在小説を執筆中だ。この「小説」こそが音楽業界にとって活路になる方法の一つだという。
〈「レリゴー」で知られる『アナと雪の女王』のテーマである『ありのままで』も、映画がなければヒットはしなかったでしょう。音楽というものは、映像や物語とミックスしたサントラ的なものになると爆発的に流行る歴史の積み重ねです。古くは『サウンド・オブ・ミュージック』であり、ディスコの『サタデーナイト・フィーバー』もそうですね。ビートルズも、マイケル・ジャクソンもその時代最新の視覚効果、映像を武器にしてヒットしたと言えます。
昨今「CDが売れない」という言説がありますが、音楽だけで売れる時代はそもそもないんですよ。僕は昔、ゲーム『パラッパラッパー』のテレビアニメ版のテーマ曲を作りましたが、こういった局面では、後から参加した音楽家やバンドは正直エラくないんです。『パラッパラッパー』はCM、アニメ、ゲームになる大ヒット作でした。でも、これら単体がエラかったというよりも、『パラッパラッパー』という「企画」ありき。1990年代末のこの場合はプレイ・ステーションのゲームだった。つまり、その時代の何らかの新しいメディアの流れの中で、人は素晴らしいコンテンツを生みだしてきた。そこに音楽をかぶせることこそ、音楽がヒットする昔ながらの道なのだ、という考え方を抱くようになりました。
◆オレがアナ雪を書いちゃえばいいじゃん!
だから、最近僕が考えているのが、『オレがアナ雪を書いちゃえばいいじゃん! そして、オレがそこで歌われるレリゴーを作ればいい!』ということです。物語、音楽とダンスが合体したコンテンツは、何千年も前から廃れていないのです。コンテンツを作ることができるのならば、音楽家は儲かるんですよ! 今、講談社から発刊される小説を書いていますが、それも映像化を念頭に置いて書いています。ただし、「音楽だけ」と捉えるのはダメです。今の時代、スマホも含め、時間をどれだけ使ってもらうかを考える「合わせ技」で考えるとヒット曲も生まれると思ってます。
今で言えば、ピース・又吉直樹さんの芥川賞受賞作『火花』もそうですね。又吉さんが類まれなる作家だったことに加え、芸人という別のコンテンツ、引き出しを持っていたから話題性があそこまであった。あれだけヒットした小説で「絵にしやすい」物語を映画化、ドラマ化することは誰だって思いつくでしょう。こういったことって100年前から変わっていないんですよ。
たとえば、CHAGE&ASKAの『SAY YES』も282万枚超の大ヒット作です。でも、これも『101回目のプロポーズ』というフジテレビ系の連ドラの主題歌になったことが大ヒットの根底にはあるわけですね。だからこそ僕は「ミュージシャン自身が『物語』を作れば儲かる」ということを言いたいんです。そう考える人が案外いないので、僕はそうなりたいな、と。それが出来れば、低予算で冒険や発信が出来る今の時代こそミュージシャンは儲かるのではないでしょうか。
音楽が単体で売れる時代もあった。待ってても周囲が動いてくれる時代もあった。でも、それって決して長い話ではないんですよね。元々はモーツァルトだってパトロンにお金を出してもらっていた宮廷音楽家だったのが、食えなくなって、後半は大衆演劇に参加せざるを得なくなった。都落ちのような感じで「なんだこりゃ?」と言われていたんですよね。でもそれって観客にチケットを売ってライヴや演劇をする今の状態の先取りですよね。
どんどん音楽家の生きる道は変わる。僕にとってはウェブがあって助かっていますね。水道橋博士に誘っていただいたメルマガ・『水道橋博士のメルマ旬報』で『郷太にしたがえ!』という連載をやっているのですが、ここから三冊すでに本を出版してます。こうしたコンテンツも含め、音楽に繋げていきたいですね〉