また、牛肉は現行の関税38.5%を27.5%に引き下げて16年目以降は9%に、豚肉は高価格品の関税4.3%を10年目に撤廃し、ソーセージなどに使う低価格品も1kg482円の関税を10年目に50円にするというが、これもさほど影響はないだろう。
というのは、かつて日米農産物交渉で俎上(そじょう)に載せられた牛肉、オレンジ、落花生、サクランボなどは市場が開放されたことで、より価格の高い商品にシフトして、生産性が上がったからである。落花生は千葉の生産農家がしっかり生き残り、柑橘類は佐賀、愛媛、和歌山などの産地で種類が豊富になって国内消費者の支持を得ている。
牛肉も関税が70%から38.5%まで引き下げられた時に畜産農家が高価格の黒毛和牛の競争力を高めて対抗した(ただし、最近は霜降りの黒毛和牛より、脂が少なくてヘルシーなオーストラリア牛や阿蘇のあか牛、岩手の短角牛などのほうが人気を集めている)。市場開放で危機感を募らせた国内の生産者が努力し、結果的に消費者が選んだものの大半は「国産」だったのである。
関税だけで消費者の購買の意思決定が影響されると考えるのは、マーケティングを知らなさすぎる。たとえば、消費者は鯖江(さばえ)の眼鏡フレームというだけではなかなか買わないが、同じものにアルマーニのブランドが付けば5倍の値段でも買う。国産豚より高いイベリコ豚も買う。豊かな国では、人々は買いたいものを買うのである。
※週刊ポスト2015年11月20日号