中国の習近平国家主席と台湾の馬英九総統がこの11月7日、シンガポールで首脳会談を行なった。1949年の中台分断以来、初となる歴史的な首脳会談である。その歴史的事案の“仕掛け人”こそ台湾の高雄市に総本山を置く佛光山寺の開祖である李国深氏、通称“星雲大師”である。
彼は1927年に中国江蘇省揚州に生まれ、12歳で仏門に入り、1949年に蒋介石軍とともに台湾に渡った典型的な外省人である。1967年に佛光山寺を開山し、1992年に教団組織として「国際佛光会」を発足、公称信徒は日本を含め約300万人、教団所属の僧侶は世界中に1500人いるとされる。台湾でも有数の巨大教団で、星雲大師は88歳となった今もトップに君臨している。過去には「自分の父親は南京大虐殺で殺された可能性がある」と主張し、反日色を明確に示してきた。
星雲大師は国民党の党員で、党の顧問や中央評議員も務めた経験があり、中台双方の政治家に幅広い人脈をもつ。馬総統とも親しく、習主席とも何度も会談している。両者に歩調を合わせるように『中台統一』を主張している。
星雲大師が日本にとって危険なのは、中台統一を主張していることの裏返しで、「反日思考」が強い点にある。星雲大師は、かねてから「南京大虐殺を目撃した」「自分の父親は南京大虐殺で殺された可能性がある」と主張し、反日色を明確に示してきた。
彼の反日主張でもっともやっかいなのが、「尖閣諸島の領有」に関する主張である。2012年9月17日に中国の対台湾交渉窓口機関である海峡両岸関係協会の陳雲林会長が、星雲大師に面会した際、大師は「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中華民族のものであり、両岸は団結し、釣魚島に向き合い、全世界の華人は郷土を愛し、国土を守ることだ。人々にはその責任がある」と語ったと証言している。中台で連合して、尖閣諸島を奪い返せという主張だ。元警視庁通訳捜査官(北京語担当)で中国情勢に詳しい坂東忠信氏はいう。
「台湾では2013年に、尖閣は台湾のものだと主張する『台湾釣魚島光復会』という団体が発足していますが、ここの主要幹部とされる謝正一という人物は、佛光山寺が運営する佛光大学に勤めていて、中華両岸事務交流会会長の肩書きももっている。星雲大師が習・馬会談を猛烈にプッシュした背景には、中台を連合させ、日本に対抗させるという思惑があったはずです」
つまり、中台連合を実現させるための“架け橋”となるのが、尖閣領有問題なのだという。