心房細動患者は、推定100万人で、よく起こる不整脈だ。心臓を動かす電気信号の異常が原因で、左心房と肺をつなぐ肺静脈から最も多く発生する。頻脈を訴える患者も多いが、心房細動が恐ろしい理由は、重大な脳梗塞が起こるからだ。
電気信号の異常で心房が細かく震え、内部の血流がうっ滞する。特に左心房から突出した左心耳(さしんじ・左心房の一部)という場所で血液が淀み、血栓ができやすい。その血栓が大動脈経由で頸動脈や脳動脈を詰まらせ、脳梗塞を起こす。脳梗塞全体の約20%が、心房細動が原因の心原性脳梗塞だ。
都立多摩総合医療センター心臓血管外科の大塚俊哉部長に話を聞いた。
「心房細動による脳梗塞の一般的な予防法は、抗凝固薬の服用ですが、出血性副作用のリスクを抱えながら、一生休みなく続ける必要がある難しい治療です。また、心房細動を整脈化する治療として薬物治療のほか、カテーテルアブレーションも行なわれますが、慢性例では再発の可能性が高いのが現状です。
私は2008年から、心房細動に対する内視鏡外科治療を始めました。脳梗塞予防と抗凝固治療離脱のための“左心耳切除”と、不整脈を根治させる“アブレーション(不整脈の原因部を高周波電流で焼き切る)”も内視鏡で行ないます」
左心耳を切除して血栓を予防する治療は、2003年にアメリカのウルフ博士が初めて行なった。脇の下の前方を5センチほど切り、内視鏡を併用して行なう治療で、治療成績がよく、すでに2000例を超す症例実績がある。このウルフ法と呼ばれる治療を内視鏡だけで行ない、より低侵襲(ていしんしゅう)化したのが、大塚部長が開発したウルフ-オオツカ法だ。