大学入試で医学部人気が続いている。しかし難しい入試を突破しても、疲れ切ってバーンアウトする研修医も多いという。知られざる医者の世界をコラムニスト・オバタカズユキ氏が紹介する。
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インフルエンザの季節も到来、塾や予備校の前を通ると、マスク姿の子供たちの姿をよく見る。受験生もいよいよ追い込みの時期だ。
大学受験でいうと、医学部人気上昇が止まらない。特に私立大学医学部医学科の人気が高い。2015年度の一般入試志願者数は8.9万人と過去最多だった。合格倍率は18.4%と狭き門だ。
入試偏差値も高騰しており、かつて「お金さえかければ子供を医者にできる」といったイメージのあった下位層の医学部はもはや存在しない。河合塾のデータによれば最低偏差値ラインは62.5だ。私立大医学部の大半は早慶の理系学部以上の難関校になっている。
その要因は、やはり将来の不透明感が増す中で、「免許さえ取ればエリートになれる」確実性にあると思われる。私立大学医学部の6年間学費総額は、
もっとも安い順天堂大学や慶應義塾大学で2100万円台、高いところでは川崎医科大学や金沢医科大学が4000万円を突破している。医学生は開業医や社長だけでなく、一般サラリーマンの子供たちも少なくないという。
それだけ難関の医学部に入るには、生半可な受験勉強では通用しない。医学部合格者数の多い学校の大半は私立の中高一貫校だ。実際に私立中学の説明会を覗いたり、学校案内のパンフレットやホームページの受験者向けサイトを見ると、東大京大の合格実績数と並んで、医学部合格者数の増加具合をアピールしているところが目立つ。
田舎のふつうの公立高校から苦学して国立大学医学部に、といった層も残ってはいるが、医学部合格への王道は、遅くとも小学4年生からガッツリ進学塾に通い、難関中高一貫校に入学してからも医学部受験予備校でガリガリ勉強してゴールイン、というものになっているのだ。
医学部入試が難しくなること自体は悪くない。医療研究、医療技術が高度化する中、受験勉強で試されるような情報処理能力に秀でた人材はどうしても必要だからだ。
ただし、医師免許取得者の大半は、臨床医になる。臨床医は、生身の人を相手にする仕事だ。相手の命を預かる場合も少なくない。勤務医は労働時間が長く、持久走をなんなくこなせるような体力を要する現場が多い。適性のあるなしも大きい。
そうした医学部に入るまでと、入ってからの求められる能力の違いに戸惑い、自信喪失をし、大学留年を重ねる医学生がずいぶんいる(その状況を公的に調査・公表してほしいものだ)。また、「勉強ができたから医学部を選んだ」という入学同期の医学生、研修医を中心に、自分が進むべき診療科を選べずに迷い悩むケースも増えている。
基本的に医師になる人は真面目であり、研修医時代もハードな仕事を懸命にこなそうとする。が、医学部や医局の世界はかなり閉鎖的で、自身が抱えている辛さや悩みを相談する機会が少ない。結果、一人で疲れきってバーンアウト(燃え尽き)になる研修医が3割はいるという調査結果もある。
とはいえ、無事に医師免許をとって、2年間の初期研修でいろいろな診療科の臨床経験を重ね、後期研修で専門医としての修業を積む流れにうまく乗れれば、やりがいはもちろん大きな仕事だし、将来の高収入も確率高く期待できる。順調に医学部を卒業、研修を終えて、市中病院に就職した場合、30歳前後で年収1000万円超えはごく一般的だ。