どんな大物だろうと天才だろうと、人生の中では思い悩み苦しむことがあった。そんな時に光を照らし道を示してくれた恩師の思い出は、今も色鮮やかに心に刻まれている。野球解説者の村田兆治氏(65)が、そんな恩師へ感謝の言葉を綴る。
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私が多大な影響を受けたのはカネさん(金田正一氏)ですね。プロ2年目の指宿キャンプに評論家として取材に来たカネさんが、ブルペンで投げている私の後ろに立ち、「お前、いいピッチャーになるぞ」と声を掛けてくれたんです。
あの頃は「ドラ1でプロに入ったからには活躍したい」という気負いがあり、必死で練習をしていた。一方で、果たして自分がプロで通用するのかという不安も常にありました。
そこに偉大な実績を残した大先輩からの一言。嬉しかったですね。カネさんに背中を押されたことで、不安が自信に変わりました。
1973年、そのカネさんがロッテの監督に就任した。そこでは「準備の大切さ」を学ばせてもらいました。
それは生活全般にわたるもので、朝の散歩に始まり、準備運動の大切さ、走ることの意味、食べることや睡眠の重要性……。お陰で、私は夏場になっても疲れが溜まらず、まるで高校時代に戻ったみたいに体が軽い状態でプレーできました。
カネさんは力で押さえつけるということをしません。監督としての退場が多いので暴君のように誤解されていますが、あくまでも選手の自主性を大切にしていました。それにすべて本音で裏表がなく、自分で範を示してくれる人でもあった。
当時は今の巨人の高橋由伸監督と同じ40歳の青年監督で、選手と一緒に汗をかいていましたね。その生き様には大きく影響された。私が引退するまで先発・完投にこだわったのも、カネさんの影響です。