土俵上では「憎らしいほど強い」といわれ、引退後も日本相撲協会理事長として君臨。角界に圧倒的な存在感を示し続けた「昭和の大横綱」は、11月20日、直腸がんによる多臓器不全で急逝した(享年62)。土俵に殉じた北の湖敏満氏は、最期まで角界の行く末を案じ続けていた。
思えばこの数年は体調不安との闘いだった。2012年に理事長として再登板した直後の2月に直腸がんの手術を受けたのを皮切りに入退院を繰り返し、昨年の1月からは本場所も何度も休場。理事長が行なうべき千秋楽の協会挨拶と表彰式での天皇賜杯の授与は、3場所連続で事業部長の八角親方(元横綱・北勝海)が代行していた。
今九州場所では、北の湖氏は初日から毎日出勤していた。会場へは理事長専用車で訪れ、駐車場にとめた車の中で少し横になった後、中入り後は理事長室に移動、大関戦以降は報道陣と観戦していた。10日目の白鵬―栃煌山戦の後では、「横綱としてやるべきことではない」と白鵬の“猫だまし”を批判し、昭和の大横綱らしい威厳を示していた。
だがこの発言の前後あたりから、体調は悪化の一途を辿っていたようだ。本誌は11日目(11月18日)に、北の湖氏を直撃取材していた。北の湖氏はこの日、中入り後をすぎても車から出て来なかった。訪問客も理事長の車に乗り込んで話をする状態。本誌は車の窓越しに、シートに深く座った北の湖氏の話を聞いた。
「腰が悪くってさ。こうやってシートに挟まれている体勢が楽なんだよ」
そういって刺身を食べ、コーンスープを口にする。かなり痩せたように見えた。
──腰を痛めた?
「そうなんだよ。(先場所の休場理由の)目のほうはもう大丈夫なんだけど、今度は腰が悪くてねェ。現役時代にヘルニアを患っていて、前から悪かったんだけど、ますますひどくなって、曲がらねえんだ。歩くのも大変なんだよ」
──治療はされている?
「手術(を受けたら)とかいわれてるんだけど、危ないからもうする気はないんだよね。マッサージや電気治療はやってるよ。鍼は怖いからイヤだ。昨日も治療に行ったんだけどね」
──内臓疾患が原因では。
「内臓は大丈夫だよ」
──千秋楽で挨拶のために土俵に上がるのは……。
「難しいね。無理だよ。土俵は高さがあるからな」