僕が政治家になってからは、母親は一切差し出がましいことはいいませんでしたが、ひとつ、「母の背中」から学んだのは選挙の何たるかでした。
母は父のかわりに地元を守り、選挙を1人で取り仕切ってきました。父が亡くなったとき、母は僕が跡を継いで政治家になることに賛成ではありませんでしたが、いざ出馬を決めると、
「選挙は投票する人が主役なのだから、直接会って気持ちを汲み取れるようになりなさい。絆を深めなさい」
といって送り出してくれました。父の選挙の時と違って母は表には出ませんでした。それから僕は1人で車を運転し、1日300軒から400軒回って地元の人たちの話を聞きました。その時の絆が現在も僕を支えてくれています。
今の若い政治家は自民党も野党も、駅前で街頭演説に立ち、自分の主張を有権者に訴えることが選挙だと考えています。しかし、それも大事ですがそれだけではいけません。有権者が何を考え、何を望んでいるか、それをしっかり汲み上げること。選挙の原点は「訴える」ことより、「聞く」ことなんです。そしてそれが僕が母から学んだ政治の原点です。
僕を頑丈な体に生んでくれて、さらに強い精神を育んでくれた母のみちは、僕にとってかけがえのない恩師なのです。
●おざわ・いちろう(政治家)/1942年生まれ。岩手県水沢市(現・奥州市)出身。1969年に初当選。自民党幹事長、新進党党首、自由党党首、民主党代表などを歴任し、現在は生活の党と山本太郎となかまたち共同代表。
※週刊ポスト2015年12月11日号