タレントの中村アン(28才)が「このコートほしい」と自身のインスタグラムに投稿した写真が物議を醸している。その理由は中村がまとっているコートが、ファー(毛皮)だったから。動物を殺すことになるリアルファーは、今はほしいと言うだけで議論を呼ぶようになっているのだ。
しかし、リアルファーは昔から“悪者”だったわけではない。1970年代まで、リアルファーはステイタスだった。マレーネ・ディートリッヒやグレタ・ガルボといった銀幕のヒロインの美しさも、リアルファーが引き立てていた部分があったし、グレース・ケリーもリアルファーのコートを好んで着ていた。ケネディ大統領夫人のジャクリーン・ケネディが豹の毛皮を着たときには、一大豹皮ブームが巻き起こったほどだ。
ファッションジャーナリストの藤岡篤子さんはこう話す。
「1970年代まで、リアルファーに対するアレルギーはどこにもありませんでした、むしろ、社会的なステイタスやリッチさを示す証だったのです」
ところが、1970年代から1980年代にかけて、動物の体から毛皮をはぐ残酷な映像が出回るようになると、風潮が変わり始めた。そして1990年代に入ると、動物愛護団体がゴージャスなリアルファーを使ったブランドに抗議のパフォーマンスをするようになった。
「当時は、お店の前で抗議するだけでなく、ショーに乱入したり、リアルファーを着るくらいならとヌードで街頭に立ったり、リアルファーを着ている人が生卵をぶつけられたりするなど、過激な抗議が目立つようになりました」(藤岡さん)
ちょうどこの頃、ファーを巡る新しい動きが出てくる。それが、リアルファーと見間違うような、質の高いフェイクファーの誕生だ。
「それまでのフェイクファーはいかにも安っぽいものが多かったのですが、この頃から、リアルファーなのかフェイクファーなのかは、よほど高級なものを除いて、見た目や手触りでは区別がつかなくなりました。これによって、ファーはゴージャスでリッチなものから、温かい素材のひとつになりました。バラエティーにも富むようになった今、ブランドは以前よりもファーを自由に使っています」(藤岡さん)