角界に圧倒的な存在感を示し続けた昭和の大横綱・北の湖敏満氏が11月20日、直腸がんによる多臓器不全で急逝した。62歳だった。2012年から理事長を務めていた北の湖氏は、死の2日前の本誌の直撃で、来年1月の理事長選について、「俺が何かいっちゃうと、変なことになってしまう」「わかってもらえるだろ?」と語ったが、氏はなぜ死の直前まで現場にこだわったのか。
ヒントは、来年1月の協会理事改選にある。2年に一度の理事選では10人の理事が選出される。出羽海、二所ノ関、伊勢ヶ濱、時津風、高砂、それに貴乃花の各一門が、それぞれが有する票数(親方株の数に準ずる)を元に、内々に候補者を絞って一門の利益代表を決める。
この理事の互選で理事長が決まるため、角界では最も重要な行事の一つだ。擁立した候補を確実に当選させるため、基礎票の少ない一門は他の一門に投票の協力要請を行なうなど、政治的な動きも行なわれる。候補者選びなどの方針は、改選直前の九州場所中の「一門会」で決まるのが通例だった。
「だが今年は違った。北の湖理事長が再登板するのか、後進に譲るのかが不透明だったため、どの一門も候補を絞れず、方針決定は東京送り(年明けの初場所中に改めて決定)になっていたのです。そこへ理事長の訃報。理事も理事長も、すべてが“白紙”で選挙を迎えることになった。
これまでは実績も人望もある北の湖理事長が、最大派閥・出羽海一門のリーダーとしても角界に睨みを利かせ、理事職を熱望する親方を抑えたりして秩序を守っていた。その“重し”がなくなった今、次期理事長の座を狙う動きが活発化、群雄割拠の様相を呈し始めています」(協会関係者)
筆頭は捲土重来を期す九重親方(元横綱・千代の富士)である。前回も次期理事長の呼び声が高かったにもかかわらず、まさかの落選という憂き目に遭った。相撲ジャーナリストが語る。
「理由は北の湖理事長を後ろ盾に協会で力を持っていた、特別顧問のX氏の疑惑を追及したからだといわれました。X氏は力士出身ではないにもかかわらず、角界に広く顔が利く実力者。協会公認のパチンコビジネスを進めていたが、その過程で業者から裏金を受け取った疑惑が浮上し、それを『週刊ポスト』にすっぱ抜かれた。これを九重さんが問題提起したところ、その後の選挙で落選。代わって当選した友綱親方(元関脇・魁輝)には、出羽海一門から票が流れたとされています」
疑惑については北の湖氏がX氏を守る形で一旦収まったが、北の湖氏については最後まで悩みの種だったようだ。