山口組と神戸山口組の両トップにとって、分裂騒動は面子をかけた潰し合いである。だが、末端組員にとっては違う。いまヤクザ社会では、分裂騒動に乗じた地殻変動が起きつつある。フリーライターの鈴木智彦氏がレポートする。
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分裂でたがが緩んだ山口組では、内部の不満が噴出しやすい。現状、分裂を深刻に受け止めているのは両陣営のトップクラスだけで、末端組員は押し殺していたストレスを発散する格好の機会としか捉えていない。
「あまりに不公平な状態が長く続きすぎた。ヤクザなのに喧嘩しても処分だし、金ばっかり毟(むし)られる。かといってサラリーマンのように転職し、別の会社に入ることもできなかった。若い人間はこのチャンスを逃したら後がないと焦ってる」(山口組系組員)
事実、山口組内部のあちこちでクーデター騒ぎがあっても、決起した末端組員は、そのまま対立相手の神戸山口組に流れない。同じ山口組内部で条件のいい別の組織に移籍したり、カタギになったりするのだ。
双方の切り崩しは続いていても、実情は組員たちの転職活動の色が濃い。2つの山口組が存在する混乱は、末端にとって歓迎すべき事態で、困っているのはお偉いさんだけかもしれない。
この段階になっても、分裂騒動が抗争にならないのは、実働部隊になる若い衆がブラック過ぎる運営に付いていけず、足並みが揃っていないからだ。
「さんざん若い衆をいじめてきたツケ。自業自得。偉そうなこと言ってたところがケツをまくられている」(同前)
幹部たちの命令よりも末端の“待遇改善要求”が先行している現状は、まったくもって今風である。