税金を徴収する側の税務署員たちもまた、納税者である。税のプロが実践している節税術にはどんなものがあるのか、ライターの清水典之氏がレポートする
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元税務署員の大村大次郎氏はその著書『税務署員だけのヒミツの節税術』(中公新書ラクレ)の中で〈税務署員は普通のサラリーマンよりも扶養家族が多い〉と述べている。税務署員に家族思いや親孝行が多いという意味ではない。彼らは扶養家族を多くすることで、所得税や住民税の「扶養控除」を最大限に利用し節税しているというのだ。
扶養控除とは、子供(16歳以上)や高齢の親などを扶養している場合に所得控除が受けられる制度(配偶者を除く)。たとえば、年収600万円のサラリーマンで、扶養家族がいない場合(独身や共働き)だと所得税と住民税の合計で約51万円になるが、専業主婦の妻と大学生・高校生の子供、さらに両親を扶養しているとそれが約8万円で済む。実に43万円の節税だ。
「扶養」は同居している必要はなく、「生計を一にする6親等内の血族及び3親等内の姻族」であればいい(*加えて、「年間の合計所得38万円以下(給与収入のみなら103万円以下)」でなければならない)。
離れて暮らす親兄弟や祖父母はもちろん、本人の又従兄弟(祖父母の兄弟の孫)や配偶者の甥や姪まで対象になるのだ。『税務署の裏側』(東洋経済新報社刊)の著者で元国税調査官の松嶋洋税理士はこういう。
「離れて暮らしていても、実際に生活の面倒を見ているのであれば、要件を満たす限り扶養親族に入れることに問題はありません。ただ、どれくらいの金額を月々仕送りすれば『生計を一』と言えるのかは税務署の解釈次第です。
一般的に同居する子供に渡す月々の小遣いは、せいぜい数万円でしょうが、税務署は扶養親族と認めるのが通例です。しかし、遠隔地だとそれでは足りないと見る可能性も大きいですね」
過去には、外国人労働者が本国の家族や親戚を何十人も扶養家族に入れていて問題になったこともある。