梅毒はペニシリンでの治療により、世界的に激減した。現在は感染症法の5類感染症に指定されており、医師は患者を診断したら、最寄りの保健所に届け出義務がある。ここ数年は増加傾向で、今年9月13日までの報告数が1701件となり、昨年1年間の1661件を突破した。特に多いのが東京都だ。
梅毒は主に、性行為などで感染し、約3週間の潜伏期を経て、梅毒の病因菌(梅毒トレポネーマ)が入りこんだ場所に、初期硬結(こうけつ)という痛みのない小さな腫れ物ができる。これがI期だ。その後2~3週間で症状は消えるが病原体は残る。
感染3か月以降3年目までのII期は、足の裏や手のひらなどに痛みや痒みのない赤い発疹が現われるなど、体に様々な症状が出る。この典型的な発疹が楊梅(ヤマモモ)に似ていることから、「梅毒」と呼ばれる。II期もI期同様、皮膚症状は数週間のうちに自然消退するが、病気は進行する。
新宿さくらクリニック(東京都新宿区)の澤村正之院長に話を聞いた。
「今年は毎月のように、梅毒の典型的な皮膚症状がある患者さんが来られます。患者は従来はホモセクシャルの30~40代の男性がほとんどでしたが、今年は若い女性の患者も見られ、異性間の性接触でも感染が広がっている実感があります」
10年前までは、梅毒はスクリーニング検査で発見されることが多く、典型的な皮膚症状を示す症例は極めて稀だった。そのため梅毒を診察したことがない若い医師では、皮膚症状を水虫や手足口病や手湿疹(てしっしん)と診断していた例もあるという。かつて脳梅と恐れられた晩期梅毒は、抗生物質の普及で、ほとんど姿を消している。