国民の注目が集まる箱根駅伝までいよいよ1か月。今大会は、前回優勝の青山学院に加え、東洋、駒沢の3校が優勝候補に上げられているが、各々の大学を率いる監督はどのような手法で選手たちのハートを掴んでいるのか。一年中いつでも陸上長距離の現場に足を運び続けるウェブメディア「駅伝ニュース」を主宰する「公園橋博士」こと、西本武司氏が監督にまつわる話題をお届けする。
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箱根駅伝では、選手を追走する監督車から、1km、5km、15kmといった決められた地点で決められた秒数での選手への声かけが認められている。のべつ幕なしに怒鳴っているわけではない。声かけにもルールがあるのだ(出雲駅伝では監督車はなくモニタールームで観戦。全日本大学駅伝では監督全員を乗せて走るバスがあり、所定のポイントで降りて選手に指示を出す)。
東洋大の酒井俊幸監督の声かけを見ていると、選手との信頼関係が厚いことがよくわかる。全日本で連続写真を撮って気づいたのは、酒井監督が指示を出す間、服部勇馬(4年)の目が監督から離れないこと。指示の内容は「入りは××分だったから、もっと(ペースを)上げられるぞ。残りは△△分で行ける」といった具合に具体的で緻密だ。全日本では選手がその指示を的確に実行して、リードを着実に広げた。
対照的なのが駒澤大の大八木弘明・監督だ。「男だろ!」という有名な掛け声に象徴されるように、短い言葉で選手を奮い立たせる。その檄は現役生だけでなく、卒業生にも向けられる。
今年5月のゴールデン・ゲームズinのべおか(通称・GGN、主催・宮崎陸上競技協会)でのことだ。村山謙太(駒澤大卒、旭化成)が1万mに出場していた。なかなか調子が上がらないままラスト1周を迎えて大八木監督が発したのは福島弁なまりの「ケンタ!」の一言だけ。
だが、恩師の一言が競技場に響きわたったその瞬間、弾けるように村山は驚くほどの加速を見せ、先行する設楽悠太(東洋大卒、ホンダ)をアウトから抜き去った。タイムは27分39秒95、世界選手権の標準記録を見事に突破してみせたのだった。