「初めは違う人を好きになるんですけど、友達って、仲よくなると、相手が好きな人がよく見えてくるんです。向こうもそうで、もう交換しようかって。だけど交換できるほど相手にしてもらえてないから、そう決めても何の進展もない(笑い)」
長い休学ののち、寺山は退学。歌人やシナリオ作家としての活動を始める。山田さんは卒業して松竹に入り、寺山が脚本を手掛けた映画の現場でばったり会ったこともある。
二手に分かれた道が再び交錯したのは、寺山が亡くなる少し前のことだ。体調が悪かったのに、山田さんのお祝いの席に出席して祝辞を述べたり、「きみの家に行きたい」と言って、ひとりで電車に乗って訪ねてきたりもした。
「駅まで迎えに行くと、もう誰もいなくなった階段を、彼が一歩一歩降りてくる。その場面をはっきり覚えています。家に来ると、すぐ『本棚を見せろ』。地下の書庫で本を手に取り、『懐かしいね』と言っていた。中年の男2人、学生みたいな会話です。あのとき別れの儀式みたいなものを持てたのが不思議で、何かの力が働いていたように思えるんです」
(取材・文/佐久間文子)
※女性セブン2015年12月24日号