《世紀の大金星》
《史上最大の衝撃》
9月19日にイギリスで行われたラグビーW杯の南アフリカ戦は、今年、もっとも日本を沸かせたニュースといっても過言ではないだろう。
この時南アフリカはW杯で最多2度の優勝を誇るチャンピオンチーム。対する日本は、予選リーグでわずか1勝しかしたことのないチーム。それなのに、試合終了直前、3点差を追う日本は最後のプレーで逆転のトライを奪い、34-32で勝利した。
奇跡――確かにそうだった。しかし、それはあるひとりの男によって、導かれるべくして導かれた勝利だった。
その男は、ラグビー日本代表元キャプテンの廣瀬俊朗選手(34才)。今回のW杯で廣瀬は、代表メンバーではあったが、一度もピッチに立つことなく、ベンチに入ることも叶わなかった。
廣瀬は身長173cmと小柄だが、複数のポジションをこなせる器用さを武器に活躍。東芝で主将としてチームを引っ張る姿に感銘を受けたエディー・ジョーンズヘッドコーチが2012年の就任後、「素晴らしいキャプテンシー」と、代表経験がほとんどなかった彼を迷いなくリーダーに任命した。しかし、W杯まであと1年半に迫った2014年1月、廣瀬はキャプテンを解任された。
「若い選手が成長してきて、廣瀬さんのレギュラー入りが確約できない状況になっていたんです。レギュラーでなければキャプテンにはなれないので、チームとしても苦汁の選択でした。というのも、廣瀬さんは、それまでずっとチームの精神的支柱だったからです」(スポーツ紙記者)
廣瀬の心はぼろぼろだった。「引退」という言葉が何度も浮かんだという。そんな廣瀬を支えたのが家族だった。2009年に結婚した妻との間の子供は、言葉を話し、走り回るほど大きくなっていた。
「ねえあなた。キャプテン、お疲れ様。今まではキャプテンのことばかり考えてきたでしょ。これからはラグビーだけに集中できるわね。今まで仲間がキャプテンのあなたを支えてきてくれたように、今度はあなたが支えてあげたら」
廣瀬は、この言葉に、どれほど救われたことだろう。それからは気持ちを切り替えて、彼は仲間のために動いた。ラグビーW杯初戦は南アフリカ。日本が勝つのは難しい、と誰もが思っていた。
「でも、廣瀬さんは前しか向いていませんでした。練習後、深夜になってもパソコンの前から離れなかったそうで、何をしているかといえば、対戦相手の研究をずっとしていた。そして仲間のために、相手役を何度も演じたんです」(ラグビー関係者)
しかし南アフリカ戦が近づき、メンバーの緊張は日々高まる一方。「このままではいけない…」。そう思った廣瀬はある行動に出た。