中国経済の失速が止まらない。国家統計局が10月に発表した第3四半期のGDP(国内総生産)成長率は前年同期比6.9%で、6年ぶりに7%を割り込んだ。中国政府は成長率目標を7%前後に引き下げ、それを「新常態(ニューノーマル)」と定義しているが、中国経済の実態はそれ以上に減速していると見るべきだ。大前研一氏がその実態を解説する。
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いま中国は「アクセルを踏んでいるのにブレーキがかかっている」という状態だ。
中国国内では高速道路、高速鉄道、港湾、空港などのインフラ整備がほとんど終わった上に経済が大減速しているため、鉄鋼メーカー、セメントメーカー、建設会社、機械メーカー、鉄道車両メーカーなどの生産能力が、どんどん過剰になっている。このままいくと、ピーク時の半分でも余ってしまうかもしれない。
したがって、これから中国は鉄鋼やセメントなど余剰資材のダンピング大国になるだろう。たとえば、世界鉄鋼協会によると、2014年の中国の粗鋼生産量は約8.2億tで、世界の粗鋼生産量(16.6億t)の5割を占めている。
仮に、その半分が余るとすれば、約4億t。中国には鉄鋼メーカーが約100社もあって政府にコントロールはできないし、国内にダンピングの場所はない。もし4億tが世界中でダンピングされたら、他の国の鉄鋼メーカーにとっては迷惑どころか死活問題となる。これはセメントについても同様だ。
本来、中国は、かつての日本が繊維不況の時に織機を、造船不況の時に船台を潰して従業員を泣く泣くリストラしたように、製造能力を整理・削減しなければならない。
しかし、それは至難の業だ。なぜなら、インフラ関連企業の多くは国営企業で、従業員は“公務員”だからである。彼らをリストラすること自体難しいし、クビにすれば共産党に対する不満につながって社会不安を招きかねないので、製造能力の削減は実行しにくい選択肢だろう。
だから中国は慌てて「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」を創設し、今まで国内で行っていたインフラ工事を労働者も含めて、なりふり構わず海外に持っていこうとしている。