マルチタレントとして多彩な才能を見せ、役者としても引っ張りだこのリリー・フランキー。今、映画でこの人を見ないときがない。最近では『バクマン。』や、現在公開中の『恋人たち』に出演。今年だけでも『トイレのピエタ』、『海街diary』、『極道大戦争』、吹き替えを務めたアニメ映画『バケモノの子』、『野火』と、出演作が続々と公開されている。
いまや映画に欠かせない存在のリリーだが、立て続けに起用される理由を映画評論家の町山智浩さんはこう分析する。
「リリーさんは映画の中でも普段のリリーさんのまま。演技をしないように、とにかく力を抜いているんだと思います。みんなが演じている中で、そのままだからかえってリアルですよね。役作りは作り物だから『こんな人いないよ』と思うことの方が多いですが、その『演技をやらせてみたらだめだった』がない。いつものリリーさんとして求められているわけで、それ以外のことはしないから安心して起用できますよね」(町山さん、以下「」内同)
当時、演技経験がほとんどなかったリリーは、2008年の『ぐるりのこと。』(橋口亮輔監督)で第51回ブルーリボン賞新人賞を受賞。2013年の『そして父になる』(是枝裕和監督)『凶悪』(白石和彌監督)では、第87回キネマ旬報ベストテン助演男優賞、第37回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞など数々の賞を受賞している。
同時期に公開された『そして父になる』と『凶悪』では、電気屋の“いいお父さん”と、人を殺すことに何の感情も持たない“極悪非道の殺人者”という対称的な役を演じ、その演技の振り幅が絶賛された。実のところ、演技で自分と全く違う人間になろうとしていないのがリリーだと、町山さんは解説する。
「全く別の人格を演じることを芝居といいますが、彼は別に誰かになろうとしていないですよ。普通のお父さんから殺人鬼の役まで、どの映画の中でも普段のリリーさんでやっていると思います。カメラが回っているときにああいうふうに肩の力を抜くことはすごく難しくて、普通はできないこと。起用する側は、そこが欲しいんでしょうね」
『ぐるりのこと。』でリリーの役者としての才能を開花させた橋口亮輔監督も、『そして父になる』の是枝裕和監督も、リリーの“カメラの前で何もしないことの凄さ”を評価している。