4Dとは異なる上映形態「極上爆音上映」(極爆)で全国から注目を集めたのは、東京郊外のシネコン、立川シネマシティだ。極爆そのものは2014年の『GODZILLA ゴジラ』から始まっていたので一部ファンにはよく知られていたが、2015年6月に公開された『マッドマックス』によって日本中から観客を集めた。

「今夏は『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』、『ターミネーター:新起動/ジェニシス』、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』、『ジュラシック・ワールド』『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』と大作映画が集中していました。そのため『マッドマックス』は6月20日に多くの上映形態で始まりましたが、次から次へと大作が封切られたので他館の4DもIMAXも早々に終わっていたんです。気づけば、特別な形の上映は極爆だけになっていました」(企画室室長・遠山武志さん)

 極爆とは、映画館スタッフではなく音響の専門家が作品に最適な音の調整をする上映形態。今夏からはさらに、野外フェスで使用される重低音を出すスピーカーを導入している。この上映形態だと爆発音や衝撃音を、実際に物理的な震動として体感できるほどの衝撃的な音が鳴るが、セリフや音楽もしっかり聞こえるのが特徴だ。映画鑑賞中、クライマックス場面で割れた音が聞こえると現実に引き戻され興ざめするが、そういった心配はない。

 上映から時間が経つにつれ、SNSを中心にネット上で評判を呼び、世界にひとつだけと言ってよいこの極爆を求めて全国から人が集まった。複数回、鑑賞したことをSNSで披露しあい、20回を超える人も現れた。極爆の『マッドマックス』を楽しんでいる中心的世代は20代女性という意外な結果もついてきた。以来、インターネットで週末や休日のチケットが販売される深夜0時になると、予約サイトにつながりにくくなった。

「極爆にぴったりの映画だとは思いましたが、シリーズものの4作目で、しかも前作から30年も経った『マッドマックス』にヒットを期待するのは難しいと考えていました。しかし予告編を観て惚れ込み、この作品のために先述の重低音用の高額なスピーカーの導入を決定しました。それが評判に評判を呼び、『スター・ウォーズ』までに極爆ブランドを確立すれば良いと考えていたにも関わらず、それよりずっと早い段階で、日本中の映画ファンにその存在を知っていただくことができました。

 立川だけの映画館ですから、全国へ向けての宣伝はしていません。でも、極爆で観たお客さんがSNSで体験を広めてくれました。ネットがなかったら、北海道や沖縄からわざわざお客さんがくるようにはならなかったと思います。これからもアクション映画、大きなモノが出てくる映画は積極的に極爆で上映していきたいですね。『白鯨との闘い』や『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』は、お客さんからも期待されていると思っています」(前出・遠山さん)

 11月から公開している女子高生が戦車で試合を行う様子を描いたアニメ『ガールズ&パンツァー劇場版』は、映画の音響チームが直接調整に立ちあったことがファンの間でも評判だ。そしてやはり、繰り返し鑑賞する人が目立つという。極爆なので体が震えるような砲撃の重低音が続くが嫌な耳鳴りがすることなく、女子高生たちの声はキンキンと耳に残らない。休日のチケット確保が難しい状態は今も続いており、この争奪戦は年末年始も続きそうだ。

 4D、3D、IMAX、音響3D、極爆など上映形態が複数にまたがることが当たり前になってきた映画館での映画鑑賞。ネットフリックスやアマゾンプライムなど、自宅にいながら映像作品を気軽に鑑賞できる行為に対して、映画館はアミューズメントパーク化しているともいえる。

「映画館で映画を観る意味は今後ますます問われていきます。スマホや自宅のテレビでは味わえない、映画の作品世界に入り込んでしまう体験をファンに届けることこそ映画館の価値だと思うんです。極爆はその方法のひとつなんです」(前出・遠山さん)

 観賞の形態が多様化するにつれ、インドの映画館のようにパーティを楽しむような鑑賞機会も増えてきた。『パシフィック・リム』では作中のロボットと一緒に「ロケットパンチ!」と叫び、『マッドマックス』ではコスプレして「V8! V8!」とはやしたてながら楽しむイベント上映が人気だ。かしこまって観賞するだけではない、新しい娯楽として映画が発見されつつある。

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