受験生にとってお正月は関係が無い。しかし頑張り過ぎるのも、やはり問題があるようだ。「受験うつ」について、コラムニストのオバタカズユキ氏がお勧め本を紹介する。
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正月休みにテレビをつけてもロクな番組をやっていない、と毎年のようにボヤくことができる人は幸せだ。世間には、暮れも正月も関係ないという人がいくらでもいるのである。
元旦営業のほうが多くなってきているスーパーマーケットや飲食チェーンなどのサービス業従事者、年越し夜勤も誰かがやらなきゃならない医師や看護師ほかの医療従事者、鉄道や道路といったインフラの現場で働く人々、運送業者、警察官もそうだ。今年は4日が月曜日なので、週明け提出物の締め切りに年末から追われているフリーランスだって少なくない。
数え上げればきりがないほど、正月無縁で仕事に励む人はたくさんいる。各自がその役割を担ってくれているおかげで、その他の日本人は、正月だ三が日だと言っていられる。だから、彼ら彼女らに感謝をしよう、だなんて道徳めいたことを書くつもりはないが、当コラムでは休めない人たちに向けてささやかながらエールを送りたい。
共にがんばりましょう。労働者万歳!
そして、労働者以外にも正月休みどころではない大勢の若者たちがいる。早ければ1月中、その多くは2月中に本番がやってくる中学や高校や大学の受験生たちだ。
それこそこの時期のテレビニュースでは、「必勝」「合格」の鉢巻を巻いて一心不乱に鉛筆を走らせる正月特訓受講中の塾生や予備校生らの様子が報じられる。一種の風物詩のようなものであるが、良識派を自認する視聴者らが「この国の受験地獄は間違っているのではないか」と眉をひそめて何かモノ申したつもりになれる題材でもある。
遠い昔、私は中学受験塾の講師をやっていたことがあるのだけれど、ああしてみんなで暮れも正月もなく勉強漬けというのは意外に快感なのだ。正月特訓で伸びる子は、「この経験って大人になったらいい思い出だよね」くらいにはマセており、「でも、外国人がボクたちを見たらクレイジーかもね(笑)」程度には自己相対化ができている。そこには、ちょっとした選民意識も潜んでいて、その意識と実力との間にギャップがありすぎると自我肥大化して良くないが、実力が伴っていけば、受験はいい成長の機会なのである。
受験生のうちの少なからずが、受験直前に驚くほど大人になる。塾講師たちの多くは正月特訓や冬期講習の仕事が好きで、それは目の前で子供が大人に脱皮していく様子を見ることができるからだ。「受験地獄上等!」と割り切れるやつが勝つ世界。それはそれで気持ちのいいものだ。
もちろん、勝者がいれば敗者もいる。全力を出し切って志望校に落ちたのなら、それは必ずしも負けではないと思うが、受験に対する向き合い方を間違え、無理を重ねてボロボロにやられてしまう場合もある。正月特訓で鉢巻をしめて調子に乗っているぐらい子はまず安心だが、その波に乗れず、登塾拒否になるとやばい。
受験に勝つだけが人生ではないので、そこから降りること自体はなんら問題ではない。でも、塾の先生のみならず、親も気づかぬままメンタル不調をこじらせる流れだけはぜひとも避けたい。
昨年末に発売された、吉田たかよし著『受験うつ』という新書がある。その本によれば、昨今の受験生の間で、うつ病が急増しているとのことである。投薬を必要とするような従来型のうつ病とは異なる、いわゆる「新型うつ」が激増しているそうだ。