テレビドラマは生活に根ざした部分が人気の鍵になりやすいが、同時に海外モノには新鮮な魅力を感じさせられることも多い。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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『天皇の料理番』『下町ロケット』、そして『あさが来た』。話題を集めヒットしているドラマを眺めると、共通点がみつかる。それは、歴史的な出来事や現実の社会という「ドキュメンタリー」的要素と、面白い筋立て、つまり「フィクション」の要素とが上手に溶け合っている、という点だ。
作者が思いついたご都合主義的で強引なストーリーを、連続ドラマで何度も見せられるとゲンナリしてしまうこともしばしば。しかし、「ドキュメンタリー」という現実の厚みに良い意味で縛られた上で、「フィクション」の面白さがそこに溶け合えば、「鬼に金棒」のドラマとなる。視聴者の方も、時代背景や現実の現場について細かく知れば知るほど、そのドラマを見る楽しみも深まっていく。
日本のドラマに限らない。
「鬼に金棒」海外ドラマの代表格がいよいよ始まる。『ダウントン・アビー4 華麗なる英国貴族の館』(NHK総合 10日~日曜午後11時)。
世界的にブレイクしたこのドラマシリーズ、「英国ドラマの魅力を世界中に知らしめた」記念碑的な作品だ。イギリスでは視聴占拠率40%超という驚異の記録を生み、アメリカでも賞を総なめにした。
「イギリス貴族の物語」というと、ちょっととっつきにくい、という人もいるかもしれない。が、世界中が熱狂したのには、それなりのワケがある。『ダウントン・アビー』がより面白くなる見所。それは以下の3つだ。
●その1 ドキュメンタリー的要素のスリル
19世紀末~20世紀初頭、近代化の波に翻弄され、イギリスの貴族は経済的な困窮に直面していく。城の維持すら困難になり没落していく貴族たちがこのドラマの主人公だ。
一方、アメリカでは株や大規模農業など新たな事業で成功を収め、大富豪が続々と生まれてきた。しかし彼らはカネはあっても、伝統や名誉という地位が無い。そこで、イギリス貴族の元へアメリカ大富豪の娘たちが嫁ぐ、という作戦が編み出される。後にはイギリスの政治や王室にも、大きな影響を及ぼしていく。
ダイアナ妃の曾祖母も、元首相ウィンストン・チャーチルの母も、実はこの時代に英国貴族へ嫁いだアメリカ人だったことを、ご存じだろうか? という史実を下敷きに『ダウントン・アビー』を見れば、ワクワクドキドキ。破産寸前の城を維持しようともがく伯爵家の姿が真に迫ってくる。現実を知るほどに、ドラマツルギーも際立つ。
ドラマにあわせてBS世界のドキュメンタリーでは19世紀末のイギリス貴族と政略結婚を描いたドキュメンタリー番組『海を越えたアメリカン・プリンセス』も放送された。
●その2 独特の様式性--しぐさ、衣装、装飾品、調度品の美しさ
馬車、銀製の燭台。羽のついた帽子、ぶ厚いカーテン。シルクのドレス。きらびやかな品々に囲まれた貴族の暮らしを、質感、肌触りともに克明に描き出す。紅茶のカップの持ち方、飲むしぐさ一つの中に、貴族の様式性が見てとれる。
舞台となった伯爵宅のロケは、イギリスに現存する古城・ハイクレア城で行われた。だから重厚感はハンパではない。窓辺から射し込む光、絨毯に落ちる影。圧倒的な映像美が、私たちを異世界へと連れ去ってくれる。