山口組分裂騒動は、異様な警戒と緊張感のなか年を越した。ともに暴力団の事情に精通する、ノンフィクション作家・溝口敦氏とフリーライター・鈴木智彦氏が対談した。
──ヤクザが変わったといえば、元安藤組組長で映画俳優としても名を馳せた安藤昇が昨年12月16日に亡くなった。
鈴木:溝口さんは安藤さんと交流はあったんですか。
溝口:私はない。
鈴木:あっ、そうなんですか。興味なかったんですか。
溝口:興味ない。ああいう色男はあんまり好きじゃない。自分の顔に酔ってるような人は(笑い)。
鈴木:そうなんですか。私は交流がありました。後先考えないで事件を起こす人が好きなんですよね(笑い)。横井英樹襲撃事件(*注)だって、絶対捕まるのに激情にかられてやっちゃうっていう、その激情がヤクザそのものじゃないですか。
【*注:1958年、実業家の横井英樹氏が百貨店・白木屋の株買い占めをめぐる金銭トラブルから安藤組の組員に銃撃された事件】
溝口:彼は経済ヤクザでもあって、自分の会社をつくってしこたま儲けていた。晩年はわからないけど。
鈴木:安藤さんて、やくざを題材にした少年漫画的な要素をほぼすべて持ってるんですよね、ナルシストの部分も含めて。スーツを着て、都会の若者を構成員にして、それでいて横井襲撃とかの事件も起こして、引き際は潔く組をぱっと解散して、俳優になって映画も大成功するっていう。少年が憧れるヤクザを体現していて、物語にしやすい。
溝口:私は、「商売がうまかっただけじゃん」という印象しかないんだけど(笑い)。
鈴木:ヤクザとしてはファンタジーですよね。でもその分、いまのヤクザにはない物語性があったと思います。