15人もの死者を出した軽井沢でのバス転落事故では、運行会社は国の基準を下回る料金で業務を請け負っていたという。そのため、安全運転するための費用が十分ではなかったのではないかとの声も強い。
一方、廃棄物処理業者による廃棄食材の横流し事件では、もともとカレーチェーン「CoCo壱番屋」で360円で販売されていたはずのビーフカツが、最終的にスーパーでは80円で売られていたという。
あまりにも安いものにはそれなりの理由があるということだろう。これについて、日本人は昔から「安かろう悪かろう」という短い言葉で説明してきた。また、安いものに飛びつけば、結局は粗悪なものを掴まされることになる。すると、体調を崩したり、買い直さなければならなかったり、結局、余計にお金がかかるということを「安物買いの銭失い」と表現してきた。
そうした「不自然に安いものへの警句」は、かつての日本では母が子に伝えていく「生きていくために必要な生活の知恵」だった。だが、現代日本ではその知恵は失われつつあると、多くの識者が指摘する。
農産物流通コンサルタントで『激安食品の落とし穴』(KADOKAWA)の著者である山本謙治氏(44才)が指摘する。
「日本ではバブルが崩壊してデフレが深刻化してきた2000年代前半から『安いもの=悪いもの』ではなく、『安いもの=お得なもの』という考え方に変わってきたと思います。
景気が悪くなり、給料が下がっている消費者にどうしたら商品を買ってもらえるかを業者側は考えました。それには値段を下げるしかない。しかし、ただ単純に安くするだけでは“質が悪くなっただけ”と捉えられて、買ってくれない。そこで、業者は消費者を安心させるために、『お得品』『お値打ち品』と広告を始めたんです。
消費者にだって商品を比較するチャンスは常にありました。ところが、業者の宣伝に甘んじた消費者側も、“とにかく安いほうがいい”と安易に発想を変え、いいものと悪いものを選別しようとする姿勢を捨ててしまったのではないでしょうか」
評論家の呉智英氏(69才)は「昔から消費者は安いものを求めるのは自然なこと」と前置きした上で、こう語る。