怪談といえば夏が定番だが、冬にもっと寒くなる恐怖体験をお届けする。36才の看護師が故郷へ帰省した時に体験した恐ろしい話とは…?
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私は霊というものを信じていませんでした。大病院で看護師をしていて、数えきれないほど死者を見てきましたし、地下の霊安室で一夜を明かしたこともあります。霊魂が存在するなら、1度くらい遭遇しているはずですが、そんな経験はありません。だから、人間は死ねば灰になる、霊魂なんか存在しない──そう思っていたのですが…。
お正月を実家で過ごすため車で山形に帰省した時のことです。夜勤明けで睡眠不足のまま、ほとんど半日、渋滞する東北自動車道を1人で運転していました。
夜の8時頃、ようやく東北自動車道のインターを降り、一本道の農道に出たところで、猛烈な睡魔に襲われました。実家まであと5kmほどですが、もう目を開けているのがやっとでした。
あたりは一面の田畑で、街灯もありません。通り過ぎる車もなく、小雪の舞う農道はしんと静まり返っていました。このまま運転していると危ないと思い、私は道路脇に車を停めました。
シートを倒したのと同時に眠りに落ちた…はずだったのですが、気がつくと私は運転をしていたのです。
(あれ、眠っていなかったのかな? うとうとして、車を停めたつもりになっていただけなのかな?)
不思議に思いながら運転していると、突然、タイヤが滑り、金属がつぶれる鈍い音がしました。ガードレールに激突したのです。ハンドルを切る暇も、ブレーキを踏む間もありませんでした。
私は額を切り、両膝から血をどくどくと流していました。脚も折れたようで、身動きできません。強烈な痛みと、薄れていく意識の中で、
「田中さん!」
と叫ぶ声を聞きました。私は「田中」ではありません。それなのに、大勢の人が「田中さん」「田中さん」と連呼しながら、車の窓をドンドンと叩くのです。窓を叩く手は見る間に増え、すぐに窓全体に人の手が張りつきました。手、手、手…。
無数と思えるほどの手が窓に張りつき、「田中さん」と叫びながら、車体が揺れるほど強く窓を叩くのです。窓を叩いているうちの1人は、「すいかおじさん」でした。実家の近くですいかを作っていて、夏によくすいかを持ってきてくれる人です。その人は「吉田さん」といいました。