大相撲の2016年初場所は琴奨菊の初優勝で盛り上がったが、角界の話題は協会の役員候補選挙(理事選)へ移った。1月29日投開票の結果、現職の八角理事長(元横綱北勝海)や貴乃花親方(元横綱)ら10人が当選し、高島親方(元関脇高望山)が落選した。この理事選の票の奪い合いに関しては、土俵上以上の駆け引きが繰り広げられていた。
理事選では原則、投票権を持つ親方が、所属する各一門で推薦された候補者に投票する。ただ票数が足りない場合は一門同士で協力することもあるし、取り決めを破って各自が好きな候補に入れることも可能だ。
「従来は投票の際、各一門を代表した立会人5人に『記入漏れを防ぐ』という名目で記述内容をチェックされながらの投票だったため“裏切り”はほぼ不可能でした。それが2010年に完全無記名、チェックなしとなったため、票の奪い合いが激しくなりました」(相撲ジャーナリスト)
票集めに苦戦した九重親方(元横綱・千代の富士)が出馬を断念するなど、直前まで混乱したが、目立ったのは貴乃花派の動きだ。票の絶対数を増やすため、弟子を半ば強制的に引退させるケースも出た。
例えば12日目(1月21日)には、出羽海一門の北の湖部屋にあった「小野川」株を、貴乃花一門・阿武松部屋の幕下・大道が引退して継承。『週刊ポスト』前号では「貴乃花親方を理事長に」という「北の湖遺言」を持ち出し、出羽海一門の山響親方(元前頭・巌雄。北の湖部屋を継承)が理事選に出馬したことをレポートしたが、彼に投票するための引退と見られる。貴乃花一門と山響親方の関係が裏付けられた形だ。
そして怒濤の追い込みを見せたのが、形勢不利とされた伊勢ヶ濱一門の伊勢ヶ濱親方(元横綱・旭富士)だ。13日目(1月22日)に時津風部屋(時津風一門)の幕下・土佐豊が引退したが、襲名したのは伊勢ヶ濱部屋の前頭・安美錦が持つ「安治川」株。当然伊勢ヶ濱親方に投票するためだが、
「時津風親方は貴乃花一門の後援会パーティに出席するなど、貴乃花親方を応援している。今回の動きは伊勢ヶ濱親方を援助するかわりに、理事長として貴乃花親方を推すことが条件になったようだ。