三谷幸喜脚本、堺雅人主演で話題を集めているNHK大河ドラマ『真田丸』。戦国時代最後の名将といわれる真田幸村(真田信繁)の生涯を描いた同作。視聴率は好調で、第2回は20.1%を記録し、2013年放送『八重の桜』以来、3年ぶりに20%の大台にのせた。1月31日放送の第4回は、17.8%だった。作品のなかで、“三谷ワールド”はどれだけ発揮されているのか。時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野さんが好調の秘密に迫る。
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まだ始まったばかりだというのに、さまざまな評価が噴出している大河ドラマ『真田丸』。初回から武田家滅亡、真田一家の脱出劇など、ものすごいスタートダッシュ。吉田鋼太郎の織田信長は、怖い顔でのしのしと登場したかと思ったら、あっという間に本能寺の変であの世に旅立ってしまった。普通、ここはもっと引っ張るでしょ?と思ったが、出てきたその回にもうめらめらと炎が燃えて、明智光秀(岩下尚史)が「敵は本能寺にあり!」と叫んでいるって。驚くべきスピードである。
しかし、私がこのドラマ全体に感じたのは、大事件の躍動感、スピード感というより、三谷幸喜脚本の「三谷ドラマファン、歴史ファン、大河ドラマファン、それぞれに配慮したバランス感覚」だった。
はっきり言って、この三ジャンルのファンすべてを満足させるのは、とても難しい。初の三谷作大河ドラマ『新選組!』では、初回に近藤勇(香取慎吾)が土方歳三(山本耕史)、坂本龍馬(江口洋介)と黒船見物に出かけた。この三人が関東にいたことは事実とはいえ、若き日に知り合いで、さらに黒船に泳いで近づこうと下帯一丁になった近藤と土方が西洋流の大砲にびっくりし、抱き合って震えるというとんでもない展開には、みんなびっくり。違和感を持った歴史ファン、大河ドラマファンも多かった。
その経験があってか『真田丸』は、くすぐりは控えめ。ただし、そこは三谷作品。女子や内輪の会話劇は現代語の三谷流、男子の会話劇は武家の格式重視の大河流とカラーと使い分けているように見える。たとえば信繁(堺雅人)が初恋の人、梅(黒木華)に土産の櫛を手渡そうとする場面。「いただけません」とためらう梅に、きり(長澤まさみ)は「いいんじゃないの、くれるって言うんだから」とプリプリしている。