井沢:伝え聞いた所では、高齢のお母様をお見舞いするために出国が許されたとか。
加藤:そこには韓国のお国柄を象徴する話があります。外国人特派員である私に対する出国禁止措置が出たあと、欧米のメディアは韓国の対応を激しく非難しました。
井沢:表現の自由を侵しているだけでなく人道的な問題でもありますから、当然です。
加藤:国際世論の高まりに、朴政権は、私という“荷物”を背負い続けるのが苦しくなってしまったんです。そして政権内で「加藤を出国させる手はないか」という動きが出てきた。しかし面子があり簡単に出国を許可できない。起訴を取り下げるなんてもってのほか。出国を許すため韓国内向けの言い訳が必要だった。
ある日、検察が私の弁護士を通して「どうしても日本に帰らなければならない事情はないか」と打診してきた。日本で仕事をしなければならないと伝えたら「その程度の理由ではダメだ」という。次に「あなたのお身内の状況は」と聞かれたので「84歳の母は、一応元気だけれども、膝が痛むことがある」というと韓国政府はうまい具合に解釈してくれました。
井沢:「“悪人加藤”も母親への情は捨てがたく孝を尽くしたいと言っている。だから出国を許そう」というわけですね(笑)。韓国は親を敬う「孝」を第一とする儒教社会ですから、これなら韓国内向けにも十分な理由になる。
加藤:韓国は建前を重んじて何事にももったいぶる国なんだな、と実感しました。
【PROFILE】いざわ・もとひこ 1954年生まれ。週刊ポストで『逆説の日本史』を連載中。2月5日、『逆説の日本史 別巻5 英雄と歴史の道』(小学館文庫)が発売。
【PROFILE】かとう・たつや1966年生まれ。1991年産経新聞東京本社入社。社会部、外信部などを経て、2010年からソウル特派員。2011年、ソウル支局長。現在は社会部編集委員。裁判の経験を綴った『なぜ私は韓国に勝てたか』(産経新聞出版)が発売中。
※SAPIO2016年3月号