俳優の寺田農は、多くの映画監督から重用されてきたが、なかでも岡本喜八監督作品によく登場した。岡本作品に出演したことで知己となった大スター・三船敏郎さんとの思い出を語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』からお届けする。
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寺田農は1968年、岡本喜八監督による戦争映画『肉弾』の主演に抜擢されている。
「その前に岡本さんが撮った『日本のいちばん長い日』に出ることになって、衣装テストをやったんですよね。そうしたら、監督がやたら触ってくるんだ。それで『あ、この人はそっちの人なんだ』と思って。
その出演は流れたんだけど、しばらくして岡本さんと麻雀することになったんだ。事前に脚本を渡されていてね。ああ、これはオーディションなんだと思った。それで夜中まで麻雀やった後でようやく話が出て、それですぐにOKになったの。『君は顔もひねくれているけど、麻雀も相当ひねくれているね』とか言われて。その時に、前の衣装テストのことが話題になったんで『監督はそっちの人かと思った』と言ったら笑ってね。
『寺田君の痩せ具合を確認していた』と言うんだ。その頃から、俺で行こうというのはあったのかもしれない。ずっとドラム缶に入っているのが絶対条件の役だから、体重があると向かないわけなんだよね。
現場では監督からの演技指導は一切なかった。『思うようにやれ』と。ただ、あれは監督の自伝的作品でもあるから、監督の毎日の姿勢を見ていると自然に演じ方は見えてきた。あの映画はやたら走るシーンが多いんだけど、サッカー部だったから綺麗に走るのは得意でね。監督もそこは喜んでくれたという覚えはあります」
岡本監督が翌年に撮った時代劇映画『赤毛』では三船敏郎と共演している。