【著者に訊け】杉山春さん/『家族幻想──「ひきこもり」から問う』/ちくま新書/864円
【本の内容】
現代の日本社会で「ひきこもり」と呼ばれる人々の数はおよそ70万人。家庭という密室の中で、激しい暴力が日常と化すこともあれば、外に出るきっかけを失ったまま30年が経過することも…。生きることに困難を抱えた人々の声に耳を傾け続けてきた著者が、15年にわたる「ひきこもり」取材を経て、〈家族〉という神話に疑問符を突き刺す。「家族って『これは言っちゃいけない』という自主規制がものすごく多いですよね。今回、自分の家族のことを言語化してみて、改めてそう実感しました」(杉山さん)。
ひきこもりという言葉が一般に知られるようになった頃から取材を重ねてきた。15年を経て、図らずも「家族」というものを問う本に仕上がっていた。
「最初は単純に、この現象は何なのだろうという好奇心だったんですよ。彼らもあと何年かすれば社会に出ていくんだろうとも思ってました。それが、何年経っても出ていけない。80代の母親が叱りながら50才前の息子にゴミの分別を教える、その凄まじさですよね。むしろそれが必要になったときに、支援員か誰か他人が教えた方がうまくいく。家族だからと息子の全生涯の責任をとろうとするので余計しんどいと思うんです」
ひきこもりの当事者たちを縛っているのは、学歴や職業等々で人を値踏みする「世間」の価値観だ。本人自身がそれを信じてしまっているからつらいのだと杉山さんは指摘する。
「親もそうなんですよ。たとえば、ひきこもりの子供を持つ父親に取材を申し込んだら、『インタビューを受けられないことが、ひきこもりの本質なんです』と言われたことがありました。どんな家族も何かしら問題を抱えているのに、それを外に出してはいけない、自分たちで解決しなきゃいけないと思い込んでいる。ひきこもりは恥ずかしいことだと。それは幻想だなと思いました」
ときには祖父母の代まで遡って取材した結果、浮かび上がってきたのは日本の近代化のひずみだ。