井沢:それでは譲歩までして得た合意の意味がなくなってしまう。日本の責任を問われるだけでなく、韓国にとってもマイナスです。合意をひっくり返したら面子を潰されたアメリカとの関係も悪化する。
加藤:そこは日本政府としても頭の痛い問題のようですね。
しかし今年はアメリカの大統領選挙があります。2年後には朴政権も代わる。そうなれば、すべては前政権が行ったことだと、反故にされかねません。「ムービング・ゴール・ポスト」と揶揄されるように、韓国政府はこれまで都合が悪くなると合意を覆して落とし所を変えてきました。外交の現場にいる人たちはそれを懸念しています。
井沢:新大統領が合意を反故にしたら韓国は国際社会の信用を失う。そして、国際社会は韓国が近代法治国家にあるまじき国だと気づきはじめている。韓国は将来的には変わらざるをえない状況にきていると思います。
加藤:私は、井沢さんが危惧されていることも私が起訴された事件も根っこは同じだと考えています。
韓国政府では国家指導者の肚ひとつで対日方針が決まります。北朝鮮もそうですが、指導者の言葉に従わなければ、北朝鮮では命が、韓国では政治的、学問的生命が奪われてしまう。だから国際的に孤立したとしても国民感情を背にした指導者に逆らうことは許されないんです。
【PROFILE】いざわ・もとひこ●1954年生まれ。週刊ポストで『逆説の日本史』を連載中。2月5日、『逆説の日本史 別巻5 英雄と歴史の道』(小学館文庫)が発売。
【PROFILE】かとう・たつや●1966年生まれ。1991年産経新聞東京本社入社。社会部、外信部などを経て、2010年からソウル特派員。2011年、ソウル支局長。現在は社会部編集委員。裁判の経験を綴った『なぜ私は韓国に勝てたか』(産経新聞出版)が発売中。
※SAPIO2016年3月号