石川県金沢市、金沢駅から歩いて15分ほどのところに、その病院はある。市内を流れる浅野川を渡り、幹線道路から入ったところに建つ、築46年の病院の外観は老朽化も目立ち、中に入ると雨漏りの跡も見受けられる。
ベッドは314床、きれいで近代的、最先端というようなイメージでは決してない。しかし、地域の信頼は絶大だ。
「公益社団法人石川勤労者医療協会 金沢城北病院」が正式名称だが、人はこの病院をこう呼ぶ。
「笑って死ねる病院」だと。
高齢化社会において、下流老人や独居老人の問題、あるいは老人ホームでの虐待など、高齢者を取り巻く環境は、つらく残酷だ。老いていくなかで、“私は、夫はどうやって死んでいくのだろう”と考えることは少なくないだろう。
自分自身の最期をどうするかは、残り少ない人生に残された大きく重要な課題だ。でも、この病院で最期を迎えた患者とその家族は、「もうやり残したことはない。幸せな最期だった」と口を揃える。それは、この病院のある取り組みに秘密があった。
「買い物に行きたい」「墓参りに行きたい」「パチンコがしたい」「大好きなあの店のうどんが食べたい」「家に帰りたい」――病状を考えれば困難な願いを、病院が一丸となって“叶えてくれる”のだ。
病院長の大野健次さんが言う。
「みなさんの願いを叶えるのは特別なことではありません。この病院が開院したのは、1949年。私が入職したのは1985年で、当時すでにそういった取り組みは確立していました。近所にお散歩に行くといった“小さなお出かけ”から、大きなことまで、数え切れないくらいの件数です。昨年は、“北陸新幹線に乗りたい”という患者さんがいて、お手伝いさせていただきました」