2月。ファンは心躍る球春到来であるが、球団にとっては失敗の許されない大事な1か月となる。阪神で球団社長を務めた、野崎勝義氏(現・関西国際大学客員教授)が語る。
「監督時代の吉田義男さんは口癖のように“春のキャンプがシーズンを決めるんや”といっていました。この時期のチーム作りはペナントレースの行方を大きく左右する。そのためよそに劣らない、質の高いキャンプをする必要があるのです。
そのためにはどうしてもカネがかかる。もちろん、フロントは練習を充実させるため、赤字になってでもバックアップしようとするのですが、球団にとって非常に大きな負担であることにかわりはありません。普通にやっても億単位の費用がかかりますからね」
各球団の選手、スタッフ全員がキャンプ地に向け大移動し、そこでおよそ1か月を過ごすのだから、かかる費用は半端ではない。キャンプ経費で最も大きな比重を占めるのが、宿泊にかかる料金である。
キャンプに参加する選手、監督、コーチ陣をはじめ、練習に欠かせないバッティング投手やトレーナー、球団スタッフなど、各球団の総勢は150人以上。その全員の宿泊・飲食費用を球団が負担することになる。
毎日の体の疲れを取る宿舎は特に重要だ。どのチームも、宿舎は本拠にするキャンプ地に近い、一流ホテルを使用するのが慣例となっている。
多くはそのホテルの2フロアほどを、ぶち抜きで貸し切りにする。警備面や一般のファンから選手を守るために必要な措置だ。そしてチーム内の序列に合わせて、順に「いい部屋」が割り振られていく。
もちろん最もいい部屋を割り当てられるのは監督だ。自室にコーチを集めて会議を開いたり、ゲストが訪問してくることを考え、通常は大きなリビングのあるスイートルームに陣取る。だが例外的に、監督よりグレードの高い部屋が割り当てられる人物がいる。
「オーナーです。キャンプには必ず視察に訪れる。期間は数日間ですが、お忙しいためいつ来られるかわからないので、阪神ではそのためだけに1か月、監督より大きな一番いいスイートルームを押さえていました」(野崎氏)