日本全国にある約8000の病院(ベッド数が20床以上の医療機関)のほとんどは、医師不足や、収入不足、経営難などに悩み、困窮状態にあるという。医師で、『本当の医療崩壊はこれからやってくる!』(洋泉社)などの著者である本田宏さんが言う。
「欧米では、キリスト教の影響などで病院への寄付は珍しくありません。しかし、日本の病院は、国や県による公立か、地元の名士や資産家などが設立してきた歴史があり、住民が寄付して、貧しい人のために役立てるというボランティア的な発想は育ちにくく、民医連のような考え方はなかなか浸透してきませんでした」
「民医連」とは全日本民主医療機関連合会のこと。「無差別平等」の医療を理念として、あらゆる患者に差別することなく適切な医療を提供することを目指している。全国150以上の医療機関が加盟している。したがって、民医連に加盟している医療機関では、他の病院で入院を拒否された認知症患者を受け入れたり、生活保護受給者に無料で医療を提供したりといったことも行われる。
しかし、現在の日本では民医連のような理念を持つ医療機関は少数派なのだ。本田さんが続ける。
「今、医療の現場は、医師不足のうえに、医療費抑制のために診療報酬は切り下げられる一方です。そのため経営難で、特に地方では、病院がなくなってしまうところも珍しくありません。そうしたしわ寄せは確実に患者さんを直撃して、救急患者の受け入れが困難でたらい回しにあったり、長期入院ができずに病院を転々としなければならないなど、医療難民が出てきます」
本田さんが指摘するように、日本の医師不足は深刻だ。1980年代に、医師過剰が問題視され、大学医学部の定員が大幅に削減されて以来、その問題は深刻化。2008年にようやく見直されたが、医師の養成には時間がかかるため、いまだ問題は解消されていない。また、診療報酬が下がることで、長期入院患者は点数が低く収入にならないからと、医療現場では倦厭(けんえん)され、結局在宅介護など、各家庭に負担が重くのしかかっている。
「埼玉県の久喜総合病院は、市から36億円近くの補助金を受けて5年前に300床の地域中核病院として設立されました。しかし、医師や看護師不足で、充分に稼働ができず、今年1月に経営困難を理由に売却が発表されました。医師不足、診療報酬削減に加えて、消費増税が大きな打撃となったのです。医療機関は薬剤や医療機器などの購入に多額のお金が必要ですが、もちろん消費税がかかります。でも、患者さんからいただく医療費に消費税はかけられません。結果として病院の負担ばかりが大きくなっているのです」(本田さん)
にもかかわらず、そうした状況はあまり国民に実感として伝わっていない。むしろ、新聞などの見出しには、“医療費は過去最高”“医師不足解消”などの言葉が躍っている。