世界をひっくり返すような新ビジネスは、たった1人の天才によって始まる、と経営コンサルタントの大前研一氏はいう。彼らはどのように頭角をあらわし、ビジネスで成功していったのか。大前氏が具体的な実例をあげながら、日本での可能性を探る。
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ジョージ・ホッツ氏、26歳。いまアメリカで話題の若者だ。17歳の時にiPhoneのSIMロックを世界で初めて解除し、21歳の時にソニーのプレイステーション3をハッキングした伝説的ハッカーにして天才プログラマー。そのホッツ氏が今度はたった1か月で市販車(ホンダ「アキュラ」)を改造し、世界中の自動車メーカーやIT企業が開発にしのぎを削っている自動運転車を自作したと報じられている。
アメリカでは、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏、テスラモーターズやスペースXの創業者イーロン・マスク氏、フェイスブック(Facebook)の創業者マーク・ザッカーバーグ氏、ウーバー(UBER)の共同創業者トラヴィス・カラニック氏ら、21世紀を代表する天才的な起業家が続々と登場している。
とりわけ創業20年で52歳のベゾス氏は、世界最大のクラウド・コンピューティング事業AWSを展開したり、名門『ワシントンポスト』紙を買収・再生させたりするなど、大企業経営者の座にふんぞり返ることなく、次々とリスクの高い事業領域に手を広げて“破壊(disruption)”を繰り返している。
ウーバーやエアビーアンドビー(Airbnb)などのゴジラ企業を生んだのは、国籍や学歴に関係のない「たった1人の天才」である。もともと世界を変える発明や技術革新は、往々にして1人の天才の手で成し遂げられる。
白熱電球や蓄音器などのトーマス・エジソンしかり、自動車大量生産技術のヘンリー・フォードしかり、タイヤのジョン・ボイド・ダンロップしかりである。そういう天才が生み出した製品を、GEやフォードやダンロップといった先行企業が国内から海外へと販路を拡大し、徐々に世の中に普及させてきたのが20世紀だ。
しかし21世紀は、1人の天才が1日のうちに1から1000まで夢想したことを瞬時に実現できる。たとえばカラニック氏は、おそらくウーバーのアイデアを思いついたその日に、国家や国境や国籍に関係ない全地球的かつスマホ・セントリックな経営システムを構想していたと思う。