馬群が最後の直線にさしかかると、スタンドから声援が飛ぶ。「ユタカ!」「イワタ!」「デムーロ!」──ジョッキーの名前を連行するのは競馬の醍醐味のひとつである。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」より、ジョッキーという職業の現実についてお届けする。
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どの馬に誰を乗せるのか。調教師として重要なミッションです。
まずは馬主さんの意向を重視します。馬の能力を最大限に発揮して勝ち切ることのできるジョッキーがベストですが、すぐに決まるわけではなく、馬の適性や個性、レース距離などによってジョッキーのタイプをいくつか提案します。
とくに新馬戦は晴れのデビュー戦ですから、馬主さんからもリクエストがあります。馬に競馬を教えてくれるようなジョッキーがいい。あたりの柔らかい乗り手では武豊、福永祐一、浜中俊。強く追えるのは岩田康誠、川田将雅、そして外国人ジョッキーでしょうか。
馬の負担を減らすために、減量特典のある若手を使うという考え方もありますが、その馬が勝ち上がっていくと実績のあるジョッキーに乗り替わりというケースも出てきます。そうなると気の毒なので、ウチでは新馬戦で若手ジョッキーに騎乗依頼することは少ないですね。
当然、いいジョッキーには騎乗依頼が集まる。だから、賛否両論のあるエージェント制は時代の趨勢だと思います。ジョッキーは騎乗に集中できるし、厩舎にとっても鞍上を決めるまでの時間のロスが防げます。厳しい勝負の世界ですから、鞍上はドライにカチっと決まる……と言い切りたいところですが、やはり人間関係も大事です。
デルタブルースで菊花賞を勝った岩田ジョッキー。今や第一人者ですが、当時はまだ地方競馬に在籍していました。パワフルな騎乗スタイルが持ち味ですが、馬主さんや厩舎に好かれるタイプです。熱心で調教にも毎朝来る。打ち上げのときにはニコニコとして歌って踊る。激しさと人懐っこさ。そのメリハリが馬主さんに好かれるのだと思います。