アメリカの政治リスク分析の専門家であるイアン・ブレマー氏が指摘する「Gゼロ」時代の世界分析が注目されている。Gゼロとは、東西冷戦時代のG2(アメリカとソ連)、冷戦終結後のG1(アメリカ一極支配)を経て、指導国が存在しなくなった国際社会をあらわす言葉。経営コンサルタントの大前研一氏が、なぜGゼロ時代を迎えたのか、アメリカはなぜ北朝鮮問題を解決しようとしないかについて解説する。
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昨年は1961年から敵対してきたキューバと54年ぶりに国交を回復させた。しかし、アメリカは長年、最高指導者のフィデル・カストロ前国家評議会議長(首相)を「独裁者」「諸悪の根源」などと非難し、CIAが何度も暗殺を企てたのではなかったか。
アメリカがフィデルと、その弟で後継者となったラウル・カストロ国家評議会議長を退陣・追放した上で国交を回復するなら話はわかる。だが、敵視政策をとってきたこれまでの経緯をすべて棚に上げて、バラク・オバマ大統領はラウルと握手した。
ミャンマーもそうだ。アメリカはミャンマーを非民主的な軍事政権という理由で一方的に敵視して経済制裁を発動し、日本も足並みをそろえて交易を禁止した。ところが、現在のテイン・セイン政権が民主化に舵を切った途端に経済制裁を解除して“ミャンマー詣で”を始めた。
その後、昨年11月の総選挙でアウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝したわけだが、私は彼女がミャンマーを真っ当な国にできる可能性はゼロに近いと思う。それでもアメリカは、利権を求めてこの国に介入し続けるだろう。
結局、キューバとの国交回復もミャンマーの経済制裁解除も、2017年1月に退任するオバマ大統領のレガシー(政治的な遺産)づくりのためにやったことである。実のところアメリカは自由も民主主義も宗教も関係なく、単に相手が好きか嫌いかで態度を変える“気まぐれ外交”を展開しているわけで、それに世界は翻弄されているのだ。
イラクのサダム・フセイン政権を崩壊させたのも、アメリカの都合だった。さらにアメリカは「本当の敵はアフガニスタンだ」とビン・ラディンが潜んでいるとみられていたアフガニスタンでも開戦し、何の成果もないまま撤退に追い込まれている。しかも「お尋ね者」のビン・ラディンは、パキスタンの豪邸で新婚生活を楽しんでいた、という洒落にならないおまけ付きだった。