認知症患者が「火事」を引き起こすケースも多い。以下は本誌の取材で明らかになった、中部地方で50代の息子夫婦と同居する80代女性Aさんのケース。
1階がAさんの居室となっている2世帯住宅で、息子はキッチンを2階に移すリフォームをするなど、火の元に注意を払っていた。ところが、お盆に菩提寺の住職がやってきて仏壇に線香を上げ、ろうそくを残していった。それにAさんが勝手に火をつけて倒してしまい、息子が気づいたときには隣家も燃える大火事に。
「この家族は結局、先代から住み慣れた街を離れざるを得なかった」(事情を知る消防隊員)
2013年には大阪府で82歳の認知症男性が妻の留守中に火事を起こし、延焼した隣家の住人が妻を相手取って200万円の損害賠償を求める裁判も起きた(昨年9月に和解が成立)。リスクは他にもある。70代女性のBさんは家族が知らぬ間に1人で買い物に出てしまい、警察沙汰になった。
「スーパーで店内カゴだけでなく自前のバッグいっぱいに商品を詰め込むまではよかったが、レジに差し出したのは店内カゴだけ。自前のバッグをそのまま持ち帰ろうとして万引き犯扱いとなった。警察官から家族も呼び出され、始末書を書いてようやく解放された」(前出の警察関係者)
いずれのケースも、家族は決して認知症患者を放置していたわけではない。それでも家族の責任が問われるリスクがあるのだ。そうしたリスクをゼロにしようとするなら、それこそ「ボケたらロープで縛りつけておけ」という話になってしまう。
※週刊ポスト2016年2月26日号