神奈川県相模原市のとある団地で2月18日、15才の長男と47才の母親が死亡する事件が起きた。長男は16日17日に高校受験があったがインフルエンザのためうまくいかず、母子で悩んでいたという。警察は心中を図った可能性が高いと見て調べている。
長男の受験に対して、かなり熱心だったというこの母親。往々にして受験戦争は母親が子供以上にのめり込む。塾に通わせ、学校説明会に走り回り、息子の偏差値に一喜一憂するのはいつも母親である。父親とは明らかに一線を画すこの熱量はどこから生まれるのか。精神科医の香山リカさんが語る。
「強すぎる母性愛は行き着くところ、子供の人生と母親を一体化させてしまうんです。子供の人生を通して、母親自身が自己実現を図ろうとする。特に、自分の居場所が家庭にしかない母親はこの傾向が顕著です。普通に考えれば受験なんて人生のごく一部ですが、子供が全てになっている母親の場合、一歩引いた立場で見ることができない。子供の成功も失敗も全て自分のことですから。なんとしても合格させようと躍起になり、子供以上に受験戦争に囚われてしまうわけです」
今回の事件もまた、母親は長男の教育に並々ならぬ熱意と愛情を注いでいた。いつしか母親は長男の化身となり、わが子を通じてしか自分の努力、成果を確認することができなくなっていたのかもしれない。
「仮に子供が受験に失敗したら、全て母親自身の失敗になる。子供を通じた自己実現の道が絶たれたと感じ、子供を慰めるどころか、一緒に絶望してしまう。相模原の事件も、不可解な心中の背景にはこうした母と子の一体化があったのではないか」(前出・香山さん)
加えて、母親にとって最もわかりやすい成功の指標が偏差値と学歴ブランドだったことが、悲劇を加速させたのではないかと指摘する。
「より偏差値の高い高校に入れ、より有名な大学に行かせなければ…という考えの人間は、えてして精神的な視野狭窄に陥りやすい。“A校に行けなければ終わりだ”と自分自身を追い詰めてしまうんです」(前出・香山さん)
学習塾「探究学舎」塾長の宝槻泰伸氏も、学歴ブランド志向に染まり、過剰ともいえる受験熱を持った母親に何度も相対してきた。