「一瞬も一生も美しく」──こんなキャッチコピーを打ち出す資生堂に対して、多くの人が女性用の化粧品会社というイメージを持っているのではないか。そんな同社が「男の悩み」である「ハゲ」を治す研究を進めているという。2年後の実用化を目指す驚きの最新研究に迫る。
すっかり風通しがよくなってしまった頭頂部に髪の毛が“復活”してフサフサになることは薄毛に悩む男性に共通する願いだが、科学の力でそれが現実のものになるかもしれない。
〈毛髪再生へ臨床研究 資生堂、脱毛部に細胞移植〉という朝日新聞(2月26日付)の記事によれば、資生堂は再生医療の技術を駆使し、毛髪を蘇らせる研究を進めているというのだ。年内に臨床研究を始める見込みで、2018年中の実用化をめざすという。
あと2年でハゲが治るかもしれない──世の薄毛男性に福音をもたらす画期的な研究のカギとなるのは、「自家細胞移植」だ。
これは、患者の頭皮から採取した「底部毛根鞘細胞(ていぶもうこんしょうさいぼう)」(毛髪の成長に重要な役割を果たす細胞)を培養して人工的に増やし、患者の頭皮に戻して毛髪を蘇らせる移植技術のこと。
ヒト由来の組織・細胞を移植し、自己再生能力により治療を行なう「再生医療」の一環……というと難しく聞こえるかもしれないが、その具体的な治療プロセスはシンプルなものだ。
まず、脱毛症や薄毛に悩む患者の後頭部から毛がある頭皮を直径5mmほど切り取り、「底部毛根鞘細胞」を取り出す。続いて特殊な技術を用いてこの細胞を数百万個まで培養した後、患者の脱毛部位(主に頭頂部や生え際)に注射器で注入する。
注入された活発な細胞が衰えた毛根を刺激し、健康な頭髪の成長を促す。つまり、失ったフサフサの髪を取り戻すことが、期待できるというのだ。
「ハゲの夢」を実現するため、資生堂は2013年にカナダのバイオベンチャー企業、レプリセルライフサイエンス社と技術提携を結んだ。今回の毛髪再生医療技術はレプリセル社が特許を持つ新技術だ。
同社との技術提携を受け、資生堂は2014年5月に神戸市のポートアイランド内に毛髪再生医療の拠点「資生堂細胞加工培養センター」を開設。そこでハゲ研究を重ねてきた結果、今年度内の臨床研究開始にこぎつけた。
研究を進める資生堂に取材を申し込むも、「あいにく窓口になっている者が海外出張で期日までに対応ができません」(広報部)との回答だった。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が今回の研究のメリットを解説する。