会場中から割れんばかりの拍手が鳴り止まない。円卓から照れくさそうに立ち上がった二宮和也(32才)は、レッドカーペットを小走りに駆け抜け、壇上に上がる。一礼し、プレゼンターの宮沢りえ(42才)から黄金のトロフィーを受け取ると、満面の笑みで握手した。
3月4日、東京・港区のグランドプリンスホテル新高輪で開かれた第39回日本アカデミー賞授賞式。最優秀主演男優賞に輝いたのは、『母と暮せば』(山田洋次監督)で吉永小百合(70才)の亡き一人息子役を演じた二宮だった。
「昨年、ぼくの先輩である岡田准一くん(35才)がこの賞をいただきまして、すごくうれしくて。家で“いい酒だなあ”と思って飲みながら見せていただきました。でも飲んでいくうちに悔しくて。“おれも欲しいな”とだんだん思ってきたときに、岡田くんに会って。“次はお前だから”と言っていただきました。ぼくが先輩の次にこれをいただくのは、すごくうれしいです」
壇上の“愛息”のスピーチを聞きながら、吉永はハンカチで目元を押さえていた。
「和也さんは、天才です」
芸歴50年を超える吉永にそう言わしめ、気づけば誰もが心奪われている二宮の演技力。支えているのは、アイドルの域を超えた熱き役者魂──では、ない。
二宮は、事前に役作りをしない。演技プランも持たない。『母と暮せば』に出演した黒木華(25才)は、昨年12月、映画誌で二宮と対談し、彼の言葉に仰天した。二宮は台本を受け取っても、自分以外の登場人物のセリフは読まないことを明かした上で、こう語る。
《全体のストーリーはホン読み(リハーサル)の時になんとなくわかる程度です》
《僕の場合、そもそも考える頭を持っていないので、自分の芝居がどうこうということを考えてもしょうがない》
台本を隅々まで読み込み、ギリギリまで演技プランを練って現場に臨む黒木にとって、二宮のスタンスは理解を超えていた。
《(二宮は)フラッと現場に現れて、一緒にけん玉とかしているうちに、フラッと帰られて…。まるで近所のお兄さんのようだった》