立命館大学・産業社会学部教授の唐鎌直義氏(社会保障論)が厚労省の国民生活基礎調査をもとに世帯構造別の貧困率を独自に試算したデータが反響を呼んでいる。最低限の生活を送る境界線として生活保護受給者(東京都新宿区在住の単身者で1か月の受給額が13万3490円)と同程度の年収160万円を設定。それを下回る収入の高齢者を「貧困層」と位置付けた。
世帯数から貧困高齢者数を割り出すと、2009年の679万人から2014年には893万5000人と、5年間で約214万人も急増。およそ4人に1人が生活保護水準以下の収入で暮らす「下流老人」になっていることになる。「老後の蓄えはそれなりにある」と安心していたのに、「妻の介護」などの予期せぬ事態を機に、下流に落ち込むケースもある。
東海地方に住む須賀隆弘さん(仮名、68歳)は地元の自動車関係の中小企業に新卒で入社。定年まで40年余り勤め上げた、典型的な団塊世代だ。
年金は夫婦合わせて年間250万円と、厚労省が試算する平均的な年金受給者である。
「退職金で住宅ローンも完済していたし、1000万円ほどの貯蓄もありました。悠々自適とまではいかないものの“ゆっくりとした老後を過ごせるだろう”と考えていたのですが、甘かった」(須賀さん)
昨年、妻が脳溢血で倒れ、半身不随になったことで下流への転落が始まった。妻の治療や入院費だけで100万円を超える出費を強いられた。妻は「要介護5」と認定され、自宅での介護はすぐに断念。退院して1か月後、近隣の老人福祉施設に入所させたが、毎月の利用料10万円弱の負担がのしかかる。年間250万円の収入から妻の施設利用料120万円を引くと、130万円しか残らない。
「年金収入の半額近くを施設利用料や妻の治療費に回し、日々の生活費で足りない部分は貯蓄を取り崩しています。酒もタバコもやめ、食費などを極力切り詰める節約生活で友人とも疎遠になった。でも、“このままだと10年もしないうちに貯金が底をつく……”との恐怖と不安から眠れない日が増えています。
妻はこれ以上良くなることもないでしょう。だけど、見捨てるわけにもいかない。私の老後に明るい未来は一切ない」(須賀さん)
リタイア後の高齢者にとって収入の柱となる公的年金は、今後さらに減額されることが予想される。