昨今男性の育児休暇について言及されることが多くなったが、メーカー勤務の大野聡さん(33才、仮名)は、1才の長男のために1年間の育休を取得した。大野さんはバリバリの企業戦士だった。
2才上の長女のときは妻が育てた。今度は自分が子育てにかかわりたいと、職場に理解を求めたが、大野さんの育休に賛同する男性は誰もいなかった。上司と口論になり、精神的に病みかけながら、なんとか育休を掴んだ。
「毎日、うれしいことばかりです」というのは大野さんの妻・香織さん(仮名)だ。
「これから帰るよってLINEをすれば、それに合わせて夫が温かい食事を作ってくれます。すごく生活が助かる一方で、外で家族のために働く夫の気持ちがわかりました。疲れて帰ったら、ボーッとしたい時間もあるんですよね。
第1子のときは、夜中に夫をたたき起こして、子供にミルクをあげてよって押しつけることもありました。今、振り返ると、よく夫は起きてくれてたなと思います。
子育ての大変さは、頭ではなく肌で実感しないとわからない。また、働きながら子育てを手伝う夫の気持ちも実感しないとわかりません。だから男の育休は必要だと思います」
『経産省の山田課長補佐、ただいま育休中』(文春文庫)の著者で国家公務員の山田正人さんも育休を取って、初めて子育ての大変さを味わった一人。
「それまでは、世の中の女性は当たり前のように子育てをしているから、大変なわけはないと思っていたんです。それが、こんなに大変だったのかとびっくりしました」(山田さん)
とにかく体力勝負の重労働だった。赤ちゃんを長時間抱っこした結果、手が腱鞘炎になった。昼夜問わない2、3時間ごとのミルク……寝不足に悩まされた。
山田さんは育休前にも家事をしているほうだったが、その家事についても発見があった。
「ぼくは、洗濯物はまとめて週末にすればいいし、床にほこりが溜まっていても見なければいいというレベルでしか家事の必要性を感じなかった。妻のほうが家事の水準が高かったんだけど、それは価値観の違いだと思っていたんです」(山田さん)
それが育休を取って一変した。
「子供が床をなめたら大変だからほこりがあったらいけません。ぼくの家事の水準も圧倒的に上がりました」(山田さん)
山田さんが育休を取得して数か月後、第3子と妻と3人で散歩をしていたとき、山田さんは妻にこう話した。
「いやあ、子育てが大変だとわかった。すごく大変だったんだね」
すると、妻はボロボロ涙を流して「ようやくわかってくれたのね」と言ったという。