暴力団対策法の制定から25年。暴力団の構成員数は減ったとされているが、その存在が消える日が来るようには見えない。とくに日本最大の広域指定暴力団である六代目山口組から神戸山口組が分裂したことで、一般市民の日常生活にも影響が出るのではないかと危惧されている。暴力団事情に詳しいジャーナリストの溝口敦氏と鈴木智彦氏が、山口組分裂騒動について論じた。
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溝口:現実問題として、暴排条例で厳しく取り締まられているから、暴力団はシノギができない。金も将来性もないのが分かりきっているから若い人が集まらない。若い人は親分の「部屋住み」からはじめて、まさに雑巾がけも含め、親分や兄貴分に顎で使われる生活に耐えられない。それで、現在の暴力団は高齢化している。
鈴木:いい物が食えて、いい車に乗れて、いい女が寄ってくる……。昔ならそんなヤクザに憧れたんでしょうけど、現実は厳しいですからね。
私が「いまは貧乏ヤクザばかりだ」などと雑誌に書くと、「儲かってる奴もいるんだから、そう書いてくれ。若いもんが来なくなる」とお願いされる(笑)。長年取材していると暴力団の変質を感じざるをえません。今回の山口組分裂騒動は、暴力団の変化を象徴していると感じます。溝口さんは分裂騒動をどう見ていますか?
溝口:抗争が起きないのが、とても不思議です。
鈴木:確かにびっくりするほど静かですね。
溝口:そこには組織内部の上層部と中堅層以下の組員の利害の不一致があると言えます。上層部は若い衆が抗争を起こしたら困る。というのも暴対法改正で「使用者責任」を問われるようになり、組長に累が及ぶようになったから。
鈴木:組のために行動を起こす「組事」の量刑も極端に上がりました。組の掟に従って敵対相手を殺したら、情状酌量などなく無期懲役以上は間違いない。
溝口:「70歳過ぎて刑務所は勘弁してくれ」というのが、組長たちの本音でしょう。一方、中堅層以下、若い人たちにとっては、「ケンカしてこそヤクザ」。しかし暴排条例のせいで、夜の街でたとえば客引きにバカにされても、返し(報復)もできなくなった。ほかの勢力を侵食しなければ新たなシノギもできない。「ケンカも返しもできないヤクザなんてやってられるか」という気持ちがある。
鈴木:私は若い子分たちが当事者感覚を持たなくなったのが、抗争が起こらない一因なのではないかと思います。